この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夜明けまでのセレナーデ
第10章 僕の運命のひと
「…羨ましいな…紳一郎さんが…」
薫は本音をぽつりと漏らす。
「…薫…」
紳一郎が口を開きかけた時…
「お兄ちゃま!もうすぐワルツが始まるの。
菫と踊って!菫と踊って!」
天使のように軽い足音が近づいたかと思うと、ふわふわとした柔らかなシルクの感触に抱きつかれる。
…綿菓子のようにふんわりとした淡い桃色のシフォンドレスを着た菫が大きな瞳をきらきらと輝かせていた。
長い髪を綺麗に巻いてもらい、苺色の別珍の髪飾りを飾っている菫は童話の世界のお姫様のような愛らしさだ。
思わず表情が和らぐのをわざと諌め、薫はやや怖い貌を作ってみせた。
「…菫…。
これからは大人の時間だ。
お前はもうお友だちと子ども部屋だろう。
ナニーにケーキを切ってもらえ」
「やだ!菫、もう七つだもん!
クリスマスはお兄ちゃまとワルツ踊るって決めていたんだもん!」
冷たくあしらわれ、大きな瞳に涙を浮かべた菫の前に、紳一郎がしゃがみこみ、優しく語りかけた。
「…お兄ちゃまはまだまだご接待のお仕事があるんだ。
菫ちゃん。僕で良かったら踊ってもらえませんか?」
菫は眼の前のいかにも貴公子然とした美しい青年に瞬きをするのも忘れ…やがてそのミルクのように白い肌を林檎のように染めた。
「…貴方がそこまで言うのなら、踊って差しあげてもいいわ」
こまっしゃくれた物言いに薫は吹き出しそうになる。
紳一郎はにこやかに微笑むと、菫に恭しく手を差し出した。
「ありがとうございます。
ではお姫様。栄えある一曲目のワルツをご一緒に…」
紳一郎のしなやかな手に菫の小さなあどけない白い手が重なった瞬間…華麗なヨハン・シュトラウスの旋律が流れた。
薫は本音をぽつりと漏らす。
「…薫…」
紳一郎が口を開きかけた時…
「お兄ちゃま!もうすぐワルツが始まるの。
菫と踊って!菫と踊って!」
天使のように軽い足音が近づいたかと思うと、ふわふわとした柔らかなシルクの感触に抱きつかれる。
…綿菓子のようにふんわりとした淡い桃色のシフォンドレスを着た菫が大きな瞳をきらきらと輝かせていた。
長い髪を綺麗に巻いてもらい、苺色の別珍の髪飾りを飾っている菫は童話の世界のお姫様のような愛らしさだ。
思わず表情が和らぐのをわざと諌め、薫はやや怖い貌を作ってみせた。
「…菫…。
これからは大人の時間だ。
お前はもうお友だちと子ども部屋だろう。
ナニーにケーキを切ってもらえ」
「やだ!菫、もう七つだもん!
クリスマスはお兄ちゃまとワルツ踊るって決めていたんだもん!」
冷たくあしらわれ、大きな瞳に涙を浮かべた菫の前に、紳一郎がしゃがみこみ、優しく語りかけた。
「…お兄ちゃまはまだまだご接待のお仕事があるんだ。
菫ちゃん。僕で良かったら踊ってもらえませんか?」
菫は眼の前のいかにも貴公子然とした美しい青年に瞬きをするのも忘れ…やがてそのミルクのように白い肌を林檎のように染めた。
「…貴方がそこまで言うのなら、踊って差しあげてもいいわ」
こまっしゃくれた物言いに薫は吹き出しそうになる。
紳一郎はにこやかに微笑むと、菫に恭しく手を差し出した。
「ありがとうございます。
ではお姫様。栄えある一曲目のワルツをご一緒に…」
紳一郎のしなやかな手に菫の小さなあどけない白い手が重なった瞬間…華麗なヨハン・シュトラウスの旋律が流れた。