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森の中
第1章 1 ハイキングコース
   声を出さずに堪えている瑠実を見て男は
「応急処置だから、ちゃんと病院に行きなさい。傷が残るといけない」
   と、冷たく言う。

  「はい」

   小声で瑠実が答えると男が
「若い女が山の中で何かあっても遅いんだよ」
   と、たしなめるように言った。

  「もう三十半ばですし若くないです」
   反論するように言ったが
「僕から見ると若くて危なっかしいよ」
   と、言いきられてしまった。

「公園までどうやってきたの?」
「車です」

 
「そこまで送るよ。この小屋の裏に車を停めてるから」
「あの。大丈夫です。歩いて帰れますから」
「いいや。送らせてもらう」
 ため息交じりに男は言う。

「はい……。ありがとうございます」


   椅子から立ち上がり男について小屋を出た。しっとりとした空気を吸い込み後ろ髪を引かれるおもいで歩いた。
 ここにくるのはきっと最初で最後だろう。
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