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24個の小さな扉
第1章 24個の小さな扉
  *

「……ばかっ……」

 ヒメと待ち合わせしてるラウンジのソファで、また今朝のことを思い出してしまった。
 黒田さんがフロントに居るけど、小さい声だから聞こえてなかったよね、「ばかっ」。

 光は、ばかだ。
 私は、そんなに心の狭い女じゃない。
 腹を立ててるのは、いくら初めてのクリスマスだって、イブに一緒に過ごせないくらいで……友達は彼氏と過ごすからって……拗ねるとか怒るとか思われたことに、だ。

「光の、ばかっ……」

 何日か前のカレンダーから出て来た、デリケートジャスミンのハンドクリームをバッグから出す。光が「良い匂いだね~」って、ふにゃふにゃ嬉しそうに笑ってたやつ、持って来ちゃったんだから。光の居ないとこで、自分だけ、塗っちゃうんだ。

「あ!!デリケートジャスミンの匂いがする!」

 約束の時間に少し遅れて現れたヒメは、ごめんねも何も言わずに、ふわふわ笑った。いつものことなので、気にしない。

「ヒメも好きなの?」

「うん、大好き!いい匂いだよねえ!」

「塗る?」

 うっとりしてる目の前に差し出すと、びっくり眼になった。

「え?!いいの?じゃあ、ちょっとだけ」

 ヒメはハンドクリームをほんの少し手の甲に伸ばした。分かる。手のひらや指先だと、取れちゃうから。
 もっと塗っていいのに。無くなっちゃって、光が残念がればいい。

「いいにおーい!ありがと、るり!!……あれ?」

「なあに?」

 ハンドクリームを、返してくれながら。幸せそうに笑ってたヒメが、突然、真顔になった。

「これ、もしかして、アドベントカレンダーに入ってたやつ?」

「うん。よくわかったねー」

「だって、量とか柄とかが店に普通にあるのと違う……!」

 ひめの目が丸くなって、輝いた。
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