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24個の小さな扉
第1章 24個の小さな扉

「すごーい!!買うの、大変だったでしょ?!」
「え」
ラメ入りのグロスでつやつやのヒメの唇が、むうっと尖った。
「アドベントカレンダー、お昼に行ったら、もう無かったの……」
「えっ?!」
このアドベントカレンダーを教えてくれたのは、ヒメだ。家にヒメと朔さんが来て四人でご飯を食べたとき、雑誌のクリスマスコフレ特集のページを見せてきて、二人でどれがいいだのこれは普通に買った方がいいだの言いながら眺めてた。
それを聞いていた光が、ある日でっかい箱を持って帰って来た。私は発売日とかすっかり忘れてたのに、憶えてて買って来てくれた……んだけど。
これ、売り切れてたの?
「シックスとー、松屋通りとー、ルミネとー、、全部行ったのにー……出遅れた……」
「なら、残りの何日か一緒に開ける?」
光に貰ったものだし、ずっと二人で開けてたけど。買いそびれたヒメと開けるんだったら、光は許してくれるだろう。
「ううん、大丈夫!他のクリスマスコフレは有ったから、いっぱい買って貰ったし!」
「いっぱい……」
「だって、朔ちゃんも色々試したいからって!いい匂いのひめをぎゅーってして、むぎゅって胸……」
嬉しそうに笑いながら喋ってた姫が、急にしまった、という顔をした。
「……ごめん!今の、内緒だった!!聞かなかった事にしてっ」
これも、いつもの事だ。ヒメに誰にも言わないと約束して、気分を変える為に、出掛けてしまう事にした。
……そんなに買うのが大変だったアドベントカレンダーを、女の子がひしめいてるお店で、わざわざ買ってくれたんだ。
私が「いいなあ」って、ひとこと言ったって、それだけで。
駅に向かって歩くヒメのお喋りに相槌を打ちながら、心のすみっこではずっと光のことを考えていた。

