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戦場に響く鈴の音
第29章 使者
「はぁん…、神路…。」
トロンとした瞳で俺を見る。
「お前、誰の女?」
「神路…。」
「よく出来ました。」
もう一度、鈴と口付けをしてから天幕に設置された寝台に鈴を寝かせてやる。
腕に巻いた帯を解いてやり俺の羽織りを被せて鈴の身体を隠せば、情事に満足をした鈴が眠りに落ちる。
本当は鈴も不安なのだと思う。
このまま籠城が続けば佐京を朧へ送り込み、虐殺を覚悟するか引き上げるしかなくなる。
そうはさせぬと天幕から出れば
「もう、天幕内へ人を入れても宜しいか?」
と入り口の横に立つ雪南が言う。
「居たのかよ…。」
雪南の覗き趣味は勘弁して欲しいと嫌な顔をしてやる。
「居ますよ。黒崎様の夕食を小姓である鈴が取りに来ないと庖丁人達が困ってますからね。」
「あー…、雪南が持って来いよ。」
「西元での事…、懲りてないのですか?」
戦場にて気が立つ兵の前で俺が鈴とイチャつけば兵がますます苛立つだけだと雪南が嫌味を放つ。
「俺だって余裕がねえの。西元の時は雪南を待つだけだったから余裕があったが今回はそうは行かねえだろ?」
待つ間くらい好きにさせろと駄々を捏ねる俺に雪南は大袈裟なため息を吐く。
「私を信じてますよね?」
斜に構えた雪南の言葉に喉の奥が詰まるような気がする。
「当たり前…だろ…。」
「なら、後3日くらい大人しくしてなさい。」
「わかってる。」
「本当に?」
「わかったから俺と鈴の飯を持って来い…。」
「私は貴方の戦略指南役であって、貴方の小姓は鈴ですよ。」
その鈴を使い物にならなくしたのは俺なのだから飯くらい我慢をしろと雪南がグチグチと説教を垂れ始める。
この戦で一番苛立ってるのは雪南だと悟った俺は、これ以上、雪南を怒らせるのだけは止めようと暗に思った。