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親愛なるご主人さま
第9章 エージェントX

“K様”こと梶篠圭吾と妻の玲子は、依頼人であるSM愛好家でセレブなサディスチン達からパートナーを預かって調教し、彼らの希望に沿うマゾ奴隷に仕立て上げ、その成果としての報酬を主な収入としている。つまりプロの調教師であった。キャリアは既に12年に及んだ。
そんなベテランの調教師夫婦であっても、菜穂子の主人“S”と契約を交わす際のプロセスと内容は異例であった。通常は調教の依頼をしてくる人物について梶篠夫妻には顔も名前も全く明かされず、依頼する側の契約者も自分の奴隷としたい恋人や妻、あるいは愛人らのパートナーがどこに連れて行かれ、どの様に調教されるのか聞くことはできない。これら全て依頼人と調教師の間に入る”エージェントX社”と呼ばれる橋渡し役の代理人組織によって仕切られ、調教の対象となる人物(女、ニューハーフ、極まれに少年も)が梶篠夫妻の屋敷に連れてこられるのだった。
しかし菜穂子の主人“S”だけは違った。高額な調教契約金のオファーと共に菜穂子を預ける調教師に『是非会ってから引き渡したい』と頑なに要望してきたのである。間に入るエージェントX社の担当代理人である細井一馬は苦慮し、組織のボスに話を上げ指示を仰いだ。依頼人と受容れる調教師が会い、秘密や顔が割れるようなことがあれば組織の信用失墜になりかねない。エージェントX社の幹部は“S”の身辺を十分調査してから、細井に指示を出し、細井は指示に従い慎重に事を運んだ。そして特例として都内のホテルのスイートを借りて、“S”と菜穂子のカップルと梶篠夫妻を引き合わせることにした。但し、菜穂子と細井を除く全員が濃いサングラスで目を隠してスイートルームに入室することが定められた。
“S”はあらかじめ細井から『K夫妻』の調教師としてのキャリアや手腕などの説明は十分聞いていた。そのうえで調教要望項目書(前述82頁参照)を、細井を通じて既に渡してあった。
故にこの場であれやこれや言わず、K夫妻への信頼の証として、あるいは菜穂子に覚悟を促す儀式的パフォーマンスの狙いも含め、菜穂子の細首には犬の首輪を嵌め、繋げた鎖のリードを恭しく”K”に手渡した。

