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親愛なるご主人さま
第9章 エージェントX

 白いワンピースに首輪姿の菜穂子は不安と緊張からなのか、パンプスの膝をカクカク震わせ、立っているのがやっとの様子だった。

「こちらは奥様の玲子様です」

 細井の紹介に、玲子は皇族の挨拶のようにロングスカートの裾を摘まみ、恭しく腰を屈め、無言で“S”に頭を垂れた。玲子はサングラスではなく妖美なベネチアンマスクをしていた。さながら仮面舞踏会の魔女の様相だ。

「K様、玲子様、菜穂子のことをよろしくお願いします」

「かしこまりました。お預かりいたします。ご期待に沿えるように・・・“させていただきます”」

 交わした言葉はこれだけであるが、サディスチン同士の阿吽が通じる挨拶だった。互いの右手を差し出し”S“と”K“は固い握手を交わした。

 このサングラス越しの「奴隷引き渡し儀式」は僅か10数分で終ったが、梶篠圭吾は“S”を律儀で真面目な好青年という印象を持った。そしてエージェントX社に任せきりにしないところに自分たちの調教成果への期待を強く感じたのである。

 細井の手で契約書が3枚セット用意され、“S”と圭吾と細井が3枚にそれぞれサインした。勿論3人とも互いが本名なのか偽名なのか知る由もないが、この時点で調教契約金の半額が前払いとして”S”からエージェントX社の口座を経て圭吾の口座に振り込まれる。残りの半額は菜穂子の奴隷調教が十分に仕上がり、完了して“S”のもとに『納品』された日に支払われる。

 その『納品』あるいは『引き取り』の”日”はあらかじめ決めず、奴隷調教の進捗が定期的に“S”に報告され、“S”の任意で細井に”その日“を指示して、細井から圭吾に伝えるという契約内容になった。

 「菜穂子さんにはあちらに着いたら誓約書にサインしてもらいます。稀に預けられた奴隷の中には調教に堪えられず拒否したり、お屋敷から脱走するのがいますからね。脱走はその時点で契約破棄となり、依頼人様は全額弊社に違約金を支払っていただくことになります。よろしいですね?」





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