この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
親愛なるご主人さま
第22章 朝のテレビニュース

玲子は菜穂子の変貌に呆然として頭を抱えた。あれほど愛しいと言っていたご主人様の慎一郎を失っても悲しくないのか?それとも悲しみを押し殺しているのか?昨夜の寝顔の涙痕は・・・泣きつくした後の乾きで生まれ変わったとでも言うのか?そして奴隷調教委託という、いわば菜穂子と自分を繋げていた『枷』が外された今、『この屋敷を出て行く』と言う菜穂子に何も出来ずオロオロと戸惑うだけの自分がいた。
菜穂子はキャリーバックを開き、テキパキと服を身に着け始めた。服を着るのは昨日のオークションパーティのメイド服を除けば、この屋敷に来た春以来であり、誰の命令でもなく “自分の服を着る”という自立行為は慎一郎と出会う前まで遡ることであった。
菜穂子は姿見の大きな鏡の前に立ち、オープンクロッチのベージュパンストに足を通し、白いハーフカップのブラジャーを着けてモスグリーン色のミニ丈のニットワンピースを頭から被るとカシミア生地の白いマフラーを合わせた。頭には薄茶色のウールのベレー帽を乗せ、足元は黒いスエードのニーハイブーツでキメた。
その姿は恋人とのデート前に、鏡の前で服を選ぶ都会に住む若い普通の女性と違わなかった。スレンダーな身体にフィットするニットのワンピースの腰回りと胸が以前よりむちっと張り付くように感じるのは、この屋敷で慎一郎の好みに合わせた「調教要望項目」を実施してバストとヒップサイズを5cmアップさせたためだろう。
そんな菜穂子の姿を眺めながら細井が言った。
「菜穂子さん。ひとつ言っておきたいことがある。あなたは自由の身となるけど、この屋敷に来た時に誓約書を書いたのを覚えているかね。調教が終わって、ここを去った後も、『ここで行われたことやエージェント”X社”に関して他言してはならない』という誓約文を。あなたは同意の上に署名し、マゾ牝になる調教を受けたんだ。そうだったよね?」
細井は自由の身になった菜穂子がここを出て行った後、警察に行く可能性が無いわけではないと、冷静に警戒して釘を刺した。

