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親愛なるご主人さま
第22章 朝のテレビニュース

「あらぁ?信用ないのね。ご安心なさってください細井さん。自由になった私が警察にタレこむとでもお思いになって? 監禁、人身売買、婦女暴行、姦通・・・ここで行われているコト、おまわりさんに言ったところで証拠もないし、この女はアタマがおかしいと思われるだけだし・・・」
「うっ・・・」
細井は返す言葉が無かった。
(安心して良いのか?・・・見透かされている・・・なんなんだ、この娘の落ち着きようは・・・これが本来の菜穂子か・・・)
「いままで体験したことは、決して忘れないわ。皆さんお世話になりました。ホント良い人生経験になったワ~!」
菜穂子は3人に弾けるような笑顔を見せながら言った。
「いや・・そんな・・やめて・・そんな言い方・・菜穂・・・」
玲子には今の菜穂子は『親愛なるご主人様』の慎一郎を失っても、奴隷調教への忍耐の如く悲しみを押し殺し、明るく強がる態度を見せているだけのように思えた。
玲子は涙を浮かべながら菜穂子に駆け寄り両手で抱き寄せようとした。
菜穂子はそんな玲子のハグをやんわり拒否するようにさっと右手を前に差し出し握手を求めた。
(えっ?握手?握手で終わるの・・・こんな最後って・・・)
玲子は何も言えず呆然としてしまった。
「奥様。ありがとう。女王様が泣いたら駄目よ」
玲子の手を握る菜穂子の細い指は雪のように冷たく、そしてほんの数秒で握った手を離した。
「じゃ、そろそろ出発します。サヨナラ・・皆さんお元気でね」
菜穂子はキャリーケースを引きながら部屋を出て玄関に向かおうとした。
「待て。そんなコートも着ない薄着じゃ凍え死ぬぞ。日は昇っても外は0度に近い。それに行き道でボスと鉢合わせたら・・・」
細井が慌てて言った。
「東京までとは言わないが、どっかの駅まで車に乗せていくぞ」
「でも・・細井さん・・・・昨夜から地下室に置いたままの、あの4人(ルミ、愛子、めぐみ、彩乃)を運ぶのだろ?4人を車に詰め込んだら一杯だろ?」
圭吾が言った。
「あぁっ、そうだった。忘れるところだった。くそっ、その仕事も急ぎなんだぁ。梶篠さんよく覚えていてくれましたね」

