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親愛なるご主人さま
第25章 川辺の雪

 「そうだよ。小林署長から連絡入っているでしょ。帰らないで入れてよ」

 「先生方や事務員さん達もみーんな今日は帰ったはずだがな・・・・ぁあ、一人残業しとるわ。儂の大好きな北条先生に用事かい?」

 守衛は施設の出入記録帳を見ながら言った。

 「ああ、そうだ」

 「玄関と門を閉める鍵は先生にも預けてある。あんた正面から入ったら中から鍵かけてくれ。不用心だからのぉ」

 「わかった。先生はどこにいるの?」

 「解剖室だと思う。3階の西だ。じゃ、儂、帰るで」

 守衛は自転車を漕ぎながら言って門を出て行った。

 矢島は急いで施設の中に入った。古い建物だ。太平洋戦争のときは陸軍の医療施設として使われ、戦後は警察病院となり、今は『付属センター』となった。医療設備は最新機器だが建物そのものの躯体はかなり老朽化している。夜に外から建物を見ると、まるで廃墟のようである。矢島はじれったいほどゆっくり上昇する狭くて汚れたエレベーターの箱に乗って3階のホールへ出た。東は犯罪心理学研究棟で、西が法医学研究棟だった。
 
 
 廊下の蛍光灯が消え非常灯だけの暗い廊下は不気味な佇まいそのもので、西の棟に進むと、医療施設特有のホルマリンやエタノールの消毒液の臭いがツーンと矢島の鼻を刺した。ここには研究のため損傷した遺体の一部など多数が液に漬けられて保存されているからだ。ここに子供たちを集めて“肝だめし”でもしたら、さぞ泣いて怖がることだろう。

 矢島は刑事になって8年だ。その間、血を流した殺人現場や損傷の激しい死体なども見てきた。拳銃などの凶器を持った殺人犯でも立ち向かえる勇気と自信もある。だが子供のころから幽霊や心霊現象とかオカルト猟奇的な類の恐怖は大の苦手だった。
 矢島にとって、今ここにある恐怖感は正にそれだった。そしてこれから会わなければならない北条レイラ女史はその恐怖感と妖忌を纏う悪魔のような存在として彼の記憶の底に取り付いていた。
引き込まれそうなほど美しく不気味で淫靡な悪魔だった。

(解剖室とか・・あのおっさん言ってたな・・・どこだ?・・・もっと奥か・・)

矢島は刑事の姿とは到底見えない腰が引けた摺り足で廊下をゆっくりと進んだ。非常灯の薄暗い灯りが『解剖室』の入り口の案内版を照らしていた。



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