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親愛なるご主人さま
第29章 失踪、消失

「え?消えたって、どういうことっすか?署長」
山田と矢島は小林署長から聞いて自分の耳を疑ったほどだ。
「儂もようわからん。新発田の遺体安置室から『菜穂子さん』が消えたんだ。センター長の岡田さん、可哀想に責任取って辞任したよ。信じられん盗難事件や」
当日の内に新潟県警内に『身元不明遺体 行方不明事件捜査本部』というやたら長ったらしい名前の前代未聞の捜査本部が立ち上がった。
県警捜査本部から山田と矢島にも通称『菜穂子事件』の捜査協力依頼が来た。県警内で『身元不明遺体 行方不明事件』などと正式名を使う者は皆無だ。いつの間にか『菜穂子』が事件のコードネームのようになっていた。
現代のような監視カメラを駆使した厳重なセキュリティシステムがまだ無い時代ではあるが、人間の死体を警備の目も厳しい医療施設から堂々盗み出すなど簡単なことではない。新発田センターの勤務者はもちろんだが、出入りの業者一人一人にまで事件の調査対象となった。
最大の容疑者は遺体安置室の入室鍵の管理者であり、保管中の菜穂子の遺体を最後に見た北条レイラであった。しかも遺体が行方不明になった当日の夜、安置室の鍵をかけ忘れてしまったと証言していた。
重要参考人の北条レイラの取り調べには県警刑事課の小田村剛というベテランの刑事が担当した。容疑者を吐かせることに関しては県外にもその名が知れ渡る強面で頭脳もキレる男だ。
取り調べ室には書記官としてもうひとり、三村誠という若い刑事もついた。

