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降りしきる黄金の雫は
第3章 3 『ナカムラ・グリーン』
「こんにちは。今度手がける庭の植木を見せてもらいに来たんですが」
「ああ、こっちによけてあるよ。良さそうなの選んでくれたらいい」

「ありがとうございます。いつもいい植木を選ばせてもらって」
「いやあ、こっちこそ。この前の柿の苗。よく病気を見つけてくれたねえ。この仕事もう40年近くやってるのに気づかなかったよ。やっぱり専門家は違うねえ」

「いえいえ。こういう普段の手入れにはかないませんよ」

中村さんのような丁寧でマメな手入れを行うと植木は病気知らずで、しかも元気がいい。植物も自分が大事にされていることがわかるのだろうか。同じ手入れをなされていても、愛情を与えられている植木はすぐにわかる。

「最近、金木犀を譲り受けたんですがまだ咲かないんですよ」
「ほう。病気じゃなくて?」

「ええ。ちょっと植え替えの頻度が多かったようなので栄養がうまく回ってないのかもしれませんが」
「ふうむ。じゃ、あれだな。寂しいんだよ」

「寂しい――ですか」
「そうそう。こうやって抱きかかえるようにしてやるといい」

中村さんは輪にした腕の中にそばにあった植木の苗を通す。

「こうですか?」
「うんうん。なんとなくじんわり感じるものがあったら、それが木との会話だ」
「へええ」

いつもここに来ると知識や学習では得られない、経験の情報を得ることが出来る。中村さんのほうがずっと樹木医のようだ。

「コニファーはどれがいい? あんまり大きくならない方がいいんだろ?」
「ええ。冬にクリスマスツリーの飾りつけをしたいらしくて、手の届く範囲がいいそうです」

「んー、じゃエメラルドかシルバースターか。庭の日当たりはどう?」
「南向きで相当日当たりいいですね」

「じゃあ、エメラルドのほうがいいか」

 青々と艶やかな葉から甘酸っぱいようないい香りが漂う。とてもいい木だ。

「オリーブと月桂樹はこれで」
「あいよ」
「それじゃ、しばらく取り置きでお願いします」

 よい植木に囲まれると元気が出る。中村さんとタロウに見送られて家路につくことにした。
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