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降りしきる黄金の雫は
第7章 7 雨
「あの、座りませんか?隣にでもどうぞ」
「ん? ふむ」

甘い香りの空気が動き僕の隣に桂さんが座る。これが人同士なら僕には耐えられない沈黙のプレッシャーを感じるが彼とは何時間無言でも安らいだまま過ごせるかもしれない。自然と質問が口をつく。

「桂さんは寂しいとか思わないのですか?」
「思わない」

即答にためらう。

「しかし、お前がいるほうが今はよい。いないときはなぜか退屈に感じる」
「そ、そうですか」

「お前は寂しいのか」
「寂しい……か……」

僕自身はどうだろうか。

「家族はいないのか」
「数年前に事故で両親は亡くなって、とくに親戚づきあいもないから」
「寂しいのか」

「どうなんだろ。親切にしてくれる人も多いし――寂しくはないです」
「そうか」

子供のころから病弱でよく入院もしていたし、両親も研究者だったので家族間の親密度は薄かった。入院中に人の死に触れることも多かったので両親の死が僕に大きなダメージを与えることはなかった。一人で過ごす夜のほうが圧倒的に多い。

「でも、桂さんが側にいるととても安心します」
「そうか」

思わず彼の胸元に寄りかかってしまった。

「あ、すみません」
「よい。そのままで」

彼は僕の頭に手を添え、心音のしない胸に抱く。彼の懐は深く静かだ。甘さと清涼さを兼ねた酸素を吸いながらまどろんだ。
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