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降りしきる黄金の雫は
第11章 11 異変
しばらくぶりに『ナカムラ・グリーン』を訪れる。飼い犬のタロウが僕に気づき舌を出しながら駆け寄ってきた。

「タロウ、久しぶりだね」

手を伸ばせば触れられる位置に来た時、突然タロウは立ち止まり「うー、うー」と唸り始めた。

「どうしたの?そんなに唸って。僕だよ」

タロウは強い警戒を見せ、近寄ろうとしても一定の距離をとっている。そのうちに中村さんがやってきた。

「影島先生、こんにちは」
「お世話になります」

タロウは中村さんに駆け寄り後ろに隠れてしまった。

「どうしたんだ。タロウ。変なやつだな」

くーんくーんと濡れた鼻を鳴らして中村さんに何か訴えかけているようだ。

「僕、タロウに嫌われちゃったかも」
「んんー?なんだろなあ。タロウあっちで遊んでおいで」

ポケットから小さな骨のおもちゃのようなものを取り出し中村さんはできるだけ遠くの野原に投げると、タロウは弧を描く骨を見ながら駆けだした。

「やれやれ、まだまだ元気だな」
「ええ。ほんとに元気ですね」

長生きなうえに元気で活力があるタロウを見ると中村さんの愛情と自然の豊かな環境が大事なのだとしみじみ感じる。

「なんか影島先生も、色つやがやけにいいなあ」
「色つや――ですか」

「わははっ。人に色つやって言い方はおかしいよなあ」
「ええ、まあ、あんまり言わないですかね」

「それに――この匂い。金木犀か。なるほどなあ。タロウは金木犀の香りが苦手なんだよー」
「え、そうなんですか?」

「うん。だから変な態度だったのかも。しかし先生、珍しいねえ、そんな香料の匂いさせて。さては、いい人でもできたのかな」

にやにやと中村さんは僕の様子をうかがう。

「や、やだなあ。違いますよ」
「そうかい? やけに 美人さんになってると思ったけど」

「そんな、ことないですよ。えっと、あの新しい植木を見せてもらいたいんです」
「えっ、ああ、悪い悪い、こっちこっち」

仕事の話に戻し、入荷したばかりの苗木を見せてもらうことにした。
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