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降りしきる黄金の雫は
第13章 13 並木道
 桜並木を作る計画は順調に進んでいる。道路を挟んで左右に1キロメートル程度の並木道を作る。
桜は成長の速く、皆が知っているということでソメイヨシノが選ばれた。3年も経てば十分な桜並木になるだろう。
しかしほかの有名な桜並木通りより木と木の間の間隔を多くとってもらったので少しばかり隙間を感じるかもしれない。
ソメイヨシノだと10メートル弱の間隔が必要だが今回12メートル開けている。本数は片側80本で合わせて160本だ。苗木を植え始めるのはおそらくこの秋になるだろう。

現場を見学しながら桜が開花したところを想像する。左右、桜色に染められ、春の陽気の中のんびり歩く。

「綺麗だろうなあ。桂さんと一緒に歩けたらどんなにいいだろう」

桂さんと会えるのは狭い庭と寝室だけ。それが嫌ではないが、もっと彼といつでもどこでも一緒に居たいと願ってしまう。ふと、庭に何かほかの木を植えてみようかと考える。庭には金木犀が一本だけ。思案していると後ろから「影島先生!」と呼ばれたので振り向くと植木職人の林田さんともう一人かなり年配の男性が立っていた。

「あ、林田さん、こんにちは。こちらは?」
「うちの隠居おやじ」

「初めまして、いつもお世話になってます。影島芳樹と申します」
「噂はかねがね――木の先生だねえ」

「まあ――先生っていうのは単なる名称で……」
「いやいや、あんたは木に愛されてるねえ。先生みたいな人がいるからまだ少しは安心だ」

白髪で少し腰が曲がっているが林田さんによく似た意志の強そうな眉と黒い瞳だ。

「心配しなくても、あんたのいつもそばにいるよ。ふぇふぇっ」
「え?」

きょとんとしていると、現場を眺めていた林田さんが振り返って「おやじは木に育てられた人だからたまに変わったこと言うんだけど、気にしないで」とこともなげに言う。

「木に育てられたんですか」
「んんー。まあな。子供の頃はいつも木をねぐらにしていた。よく椎の木(シイノキ)の子供とも遊んだんだぞ」
「ええ? 椎の木の子供?」

「うんうん。戦後なにも食べるものがなかったが、シイちゃんはよく椎の実をくれたもんだ」
「シイちゃん――ですか」
「大人になるといつの間にかおらんようになってしまったがな」
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