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狼に囚われた姫君の閨房録
第23章 山南脱走

草木も眠る丑三つ時。眠れなかった私は床を出た。
月明かりもなく、真っ暗だ。寝静まっているのだろう。屯所内は物音一つしない。
私は手燭を手に、庭に降りた。目指すは、山南が押し込められている牢。せめて、一言なりと話がしたかった。
夕立ちの名残りの水たまりをよけて先を急いでいると、
「こんな夜中に何してるのさ?」
背後から、声がかかった。すぐに、総司だと分かった。
「おじさんの牢に行くつもりじゃないよね?」
「立ち入り禁止だと兄上に言われたはずだ」
暗闇の中で、一の目の奥が光る。
「お目にかかるだけでいいんです。お世話になっていたのに、あまりにも突然で……」
私は唇を慄かせたが、一が冷ややかに言い放つ。
「そなたも大老の姫ならば、分かるはずだ。会ったとて、未練にしかなるまい。おじ上の恥になる。やめておけ」
「ですが……」
「じゃあさ、言伝を承るよ。介錯は僕がすることになったから」
私は総司を見た。総司ならば介錯役には適任だが、体は大丈夫なのか?
総司はフッと笑った。
「介錯もやれないほどの重病人じゃないよ。それで、伝言は?」
「今までありがとうございました。おじ上様のことは忘れませぬと」
ありきたりだが、これ以上のことは言えない。全ての気持ちを込めた。
「心得たよ。たしかに、伝える」
元治二年二月二十三日。山南敬助は、見事な割腹を遂げた。
享年三十三。遺体は光縁寺に納められた。
月明かりもなく、真っ暗だ。寝静まっているのだろう。屯所内は物音一つしない。
私は手燭を手に、庭に降りた。目指すは、山南が押し込められている牢。せめて、一言なりと話がしたかった。
夕立ちの名残りの水たまりをよけて先を急いでいると、
「こんな夜中に何してるのさ?」
背後から、声がかかった。すぐに、総司だと分かった。
「おじさんの牢に行くつもりじゃないよね?」
「立ち入り禁止だと兄上に言われたはずだ」
暗闇の中で、一の目の奥が光る。
「お目にかかるだけでいいんです。お世話になっていたのに、あまりにも突然で……」
私は唇を慄かせたが、一が冷ややかに言い放つ。
「そなたも大老の姫ならば、分かるはずだ。会ったとて、未練にしかなるまい。おじ上の恥になる。やめておけ」
「ですが……」
「じゃあさ、言伝を承るよ。介錯は僕がすることになったから」
私は総司を見た。総司ならば介錯役には適任だが、体は大丈夫なのか?
総司はフッと笑った。
「介錯もやれないほどの重病人じゃないよ。それで、伝言は?」
「今までありがとうございました。おじ上様のことは忘れませぬと」
ありきたりだが、これ以上のことは言えない。全ての気持ちを込めた。
「心得たよ。たしかに、伝える」
元治二年二月二十三日。山南敬助は、見事な割腹を遂げた。
享年三十三。遺体は光縁寺に納められた。

