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狼に囚われた姫君の閨房録
第31章 新選組、敗走

一月十三日。海風は強いが、晴れ間がのぞく夕刻だった。
「山崎くんは新選組のため、無私の働きをしてくれた」
富士山丸の甲板で、父は声を張り上げた。
新選組のみならず、ほかの幕臣らも甲板に整列していた。
総司も、一の肩を借りて参加している。
「功に報いるべく、水葬で送り出そうと思う。山崎くん、今後も我らの戦いを見守ってほしい」
その言葉が終わるや否や、空中に放たれた一発の空砲。
「水葬!」
歳三の下知で、山崎の棺が少しずつ紀州沖の海に降ろされる。
あちこちで、すすり泣きが漏れた。
「まさか……山崎さんみたいな抜け目のない人がよ〜っ」
利三郎が涙を拳で拭うと、
「泣くな。ご立派な最期だったじゃないか」
そうたしなめる主計も涙声だ。
「お前だって、泣いてるじゃんか」
「うるさい。泣いてない!」
「泣いたっていいじゃねえか。俺は笑わねえぜ」
左之助が二人の肩に腕を回した。波間に消えていく棺を見据えて続けた。
「山崎は幸せ者だぜ。こんな立派な葬儀をしてもらってよ。大勢に見送られてよ。こんないい死に様はねえよ」
「はい……」
「……はいっ」
左之助に肩を抱えられたまま、二人は咽んだ。
私も、やや離れたところで嗚咽した。
山崎烝に告げられた真実。試衛館は私を守るために集められた人たち。
(私はそれに命をかけても報いたい……でも、それは国を滅ぼすもとになる……なぜ?)
考えれば考えるほど、わけがわからない。わからないまま、私は涙を流し続けた。
「山崎くんは新選組のため、無私の働きをしてくれた」
富士山丸の甲板で、父は声を張り上げた。
新選組のみならず、ほかの幕臣らも甲板に整列していた。
総司も、一の肩を借りて参加している。
「功に報いるべく、水葬で送り出そうと思う。山崎くん、今後も我らの戦いを見守ってほしい」
その言葉が終わるや否や、空中に放たれた一発の空砲。
「水葬!」
歳三の下知で、山崎の棺が少しずつ紀州沖の海に降ろされる。
あちこちで、すすり泣きが漏れた。
「まさか……山崎さんみたいな抜け目のない人がよ〜っ」
利三郎が涙を拳で拭うと、
「泣くな。ご立派な最期だったじゃないか」
そうたしなめる主計も涙声だ。
「お前だって、泣いてるじゃんか」
「うるさい。泣いてない!」
「泣いたっていいじゃねえか。俺は笑わねえぜ」
左之助が二人の肩に腕を回した。波間に消えていく棺を見据えて続けた。
「山崎は幸せ者だぜ。こんな立派な葬儀をしてもらってよ。大勢に見送られてよ。こんないい死に様はねえよ」
「はい……」
「……はいっ」
左之助に肩を抱えられたまま、二人は咽んだ。
私も、やや離れたところで嗚咽した。
山崎烝に告げられた真実。試衛館は私を守るために集められた人たち。
(私はそれに命をかけても報いたい……でも、それは国を滅ぼすもとになる……なぜ?)
考えれば考えるほど、わけがわからない。わからないまま、私は涙を流し続けた。

