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オレンジ色の世界で。
第2章 嵐の中、母とふたりきり。
 まず、父と母がセックスをして、それで母が妊娠してぼくが産まれた。
 そんな事は考えるまでも無く、そうなのだけれど、父と母がそう行為をしてる映像がいまいち頭に浮かばなかった。
 ぼくの父と母は比較的仲良しだと思う。
 夫婦喧嘩してるところなんて見た事が無いし、今でも月に一度は二人で食事に出掛けたりしている。
 けれど、キスは疎か手を繋いでるところすら見た事が無かった。
 そう言う光景をぼくに見せない様に生活してるのかもしれないが、兎に角、全く性的な匂いのしない夫婦だった。
 いや、勿論、性的な匂いのする夫婦をお前は見た事あるのか?と問われると、それは分からないとしか答えられない。
 けれど、街を歩いていたり駅で電車を待っていたりすると、男女のカップルが人の目を気にせずにベタベタと身体を寄せキスをしたりするところを、何度か見た事はある。
 中学校でも、休憩中にいちゃいちゃとしてるヤツらもいるくらいだから、真面目に普通に生きていてもそう言う事は必然と視界の中に入って来るのだ。
 例えば映画とかドラマに出てくる夫婦や恋人たちは、いちゃいちゃしてるしキスをしたり、ベッドの上で抱き合ったりもしている。
 そう言う人たちと比べると、ぼくの両親は、全くと言っていい程にそう言う事をしない人たちだった。
 月に一度の二人での食事の時に一ヵ月分のいちゃいちゃを、ぼくには内緒でしてるかもしれないけれど。
 あと少しで焼きそばを食べ終える頃に、電話が鳴り響いた。エロ思考が途切れた。
 母はタオルで手を拭いつつ、小走りで受話器を取りに向かう。
 十六時前。何となく、電話の相手は父じゃ無いかな?と思っていた。

「――はい、もしもし。あ、お父さん?はい――。そうね、凄い雨と風――。あら、電車停まってるの?ええ――。今晩は帰って来ないのね。はい――。お父さんも気を付けてね――」
 母はそう言うと、静かに受話器を置いた。
 ぼくは焼きそばを頬張りつつ、母の事をじいっと見詰めていた。
「あのね、たかしくん?お父さん、今晩、会社に泊まるんだって。電車も停まってるみたいだし、今晩家に帰って来ても明日出勤出来なくなる可能性があるからって」

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