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オレンジ色の世界で。
第2章 嵐の中、母とふたりきり。
 それから母はキッチンへと戻った。
 こう言う事は年に何度かある。父がどの様な仕事をしているのか、ぼくはいまいち理解して無いけれど、兎に角忙しくて大変な仕事だと言う事は理解している。
 ごくりと焼きそばを飲み込んだ。
「まぁでも、今回は会社にいるんだからまだ安心だよね。前の時はさ、嵐の中飛行機に乗ってて、着陸出来ないとかで大変だったから」と、ぼくは呆気らかんと言った。
 むしろ立派なビルの中で台風を過ごす父の方が、家にいるぼくらより安全だとも思うし。
「そうだけどさぁ、母さんとしては、こう言う時は家族一緒にいたいなぁって思うよ。でも、まぁ、帰って来れないんだから仕方ないよねえ。それにしても、今晩カレーにしておいて正解だったわぁ。父さんには明日いっぱい食べて貰おうっと」
 母は一瞬寂し気な雰囲気を醸し出したが、すぐに気を取り直した様で鼻歌混じりに料理を再開させた。
 ぼくは焼きそばを食べ終え、食器を片付けようと席を立ったのだが「いいよ、そのまま置いといて。母さんが片付けるから」と母に言われたので、飲みかけのお茶を手に居間へと向かった。

 ソファに腰掛け、テレビをつける。
 どのチャンネルを回しても、台風関連の話題で持ちきりだった。
 ぼくたちが住んでいる地域には夜中から朝方に掛けて直撃するらしい。避難警報が出ている地域もあった。
「――ねえ、母さん?近くの川が氾濫するかもしれないから、寝る時は二階以上がいいって災害の専門家が言ってるよー。あと、貴重品とかも二階に上げとけってさー」
 ぼくがそう声を上げると、母も居間へとやって来た。
「うわぁ、床上浸水ってやつかぁ。今まで経験無いけど、確かに今回の台風はヤバイかもねえ。貴重品かぁ。通帳とか印鑑とか、お父さんの大切そうな書類とか本とかかなぁ。ねえ、たかしくん?後で段ボールに貴重品詰めておくから、二階に上げておいてね。客間でもたかしくんの部屋でもいいからさ」
「あ、うん、いいよ。あと、停電になるかもしれないから、懐中電灯とか蝋燭とか用意しとけって言ってたよ」
「懐中電灯かぁ。あるけど、電池切れてるかも。蝋燭は無いかなぁ。そんなのさ、仏壇とかある家じゃ無いと普通無いよねえ」と、母はそう言いつつキッチンへと戻って行った。
 心配はしてるみたいだが、危機的状況だとは考えて無いらしい。

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