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ペリドット
第1章 台風9号が直撃する夜。
「スミマセン、気が付いてたんですけど、新聞の勧誘とかだと思ってシカトしてました」
  相対するなり、いきなり喰い気味にそう切り出した僕を見て奥さんはクスクスと笑みを零していた。
「ですよね、そうじゃないかなぁって思ってたんです。私もこの時間の突然の来客はセールスとか新聞屋さんだと思っちゃいますから。でも、橘さんのご帰宅される音が聞こえたので、それで、出て来てくれるまで呼び鈴鳴らしちゃいました……こちらこそゴメンナサイ」
 奥さんはそう言うと少し照れながらもペコリと頭を下げてくれた。多分、僕と同じ歳の頃だと思うが、落ち着いているので、大人っぽく見える。
 確か旦那さんの方は少し歳上の様に見えた記憶があった。年上の男性に嫁いでいるから、自然と大人っぽさが滲み出てくるのかもしれない。

「いやいや、そんな、奥さんが謝らなくても……。で、その、何かありました?」
「あ、あの、橘さん、もうお食事されましたか?」
「晩飯ですか?まだですよ。雨も風も強いから、ピザでも頼もうかなぁって思ってたんですけど……」
 奥さんは涼しげな笑みを浮かべていた。絶世の美女では無いが、儚い一輪の白い花の様な雰囲気を漂わせる人だった。長い髪も似合うと思うのだが、今は癖のないミディアムヘアで、それがまた彼女の清楚さを上げている様に思う。
「まだ……頼まれて無いのでしたら、ウチで一緒にどうですか?」
「え、僕が?今から、ですか?」
「あの……迷惑だったら無理強いはしませんけど」
「あ、いや、迷惑だなんて全然……むしろ、結構嬉しいです」
 僕が感謝の意を述べると、奥さんはより一層笑みを深めてくれた。
 朗らかで清廉なその笑みに僕は思わず胸を高鳴らせてしまっていた。
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