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ペリドット
第2章 ふたりの少女。
「旦那さんは今日の夜もいないの?」と、僕はさらりと切り出してみた。
「――わかりません」
 彼女は一瞬、間を設けてからそう答える。 
「旦那さんが帰って来ない日とか、結構あるのかな?」
「わかりません」
「僕とキミは、次、いつ逢えるんだろう?」
「……わかりません」
 彼女はそう答えて、一瞬手を止めたが直ぐに動き出した。
 意識して僕の方を見ない様にしている素振りも見せるところが、何とも胸を擽る。
 それを見て、僕は一瞬苛ついたが、すぐに緩やかな興奮状態となった。
 やはり、彼女と会話していると、普段とは別の「僕」が顔を出してしまう様だ。

「あのさ、帰る前に、キミを抱き締めてキスがしたいんだけど」
「でも、主人がもう帰って来ますから……」
「キスをする時間くらいは残されていると思う」
「でも、予定よりも早く帰って来るかもしれないですし……」
「その髪、可愛いね。すごく素敵だと思う」
「……ケイゴさん?」
「でも、服はもう少し明るい色を選んだ方がいいね。美人なんだからもっと……」
「ケイゴさんっ!」
 僕の言葉を遮り、今にも泣き出しそうな顔で、彼女は僕の胸に飛び込んで来た。 
 恐らく、青春時代にろくに恋愛をして無い彼女は、この歳になって、淡い恋心を経験しているのだ。
 世間一般から見れば立派な不倫でしか無いのだが、彼女的には高校の先輩と後輩の間柄の様な感覚でいるのかもしれない。
 胸に顔を埋める彼女の形の良い後頭部を柔らかく撫でると、ゆっくりと顔を上げてくれた。
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