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スカーレット オーク
第1章 1 オペラ『カルメン』
開演には時間があるのでワンピースとパンプスとバッグを床に並べてコーディネイトを確認する。
ワンピースはAラインの黒のベロア素材でパフスリーブ。
パンプスはかろうじてヒールがあるような三センチ程度のシンプルなラウンドトウの黒の革。
バッグもパンプスと同じような素材のクラッチバッグ。
黒尽くめにため息を混じらせるが弟子の身の緋紗にとって、これ以上ファッションに費やせる労力はなく、深く考えないようにしてシャワーを浴びることにした。

熱めのお湯を頭からかぶりながら手をごしごしこする。
ここ十日間の窯焚きの証が指先に残ってる。
薄黄色い松の脂が指先に浸み込んだようにこびりついているのだ。
会場は暗く手を見られることはないだろうからと、少し摩擦で赤くなった指先を洗いおえた。

 随分使っていないコンタクトレンズを横目にセルフレームの眼鏡をかけベリーショートの髪に少しジェルをつけて整える。
そしてもう一度リップを塗り直し火の元を確認してパンプスを履いた。
古びたドアの固い鍵を閉め、ドアノブを回し確認する。


 夕方の伊部駅は高校生で賑わっているが、みんな岡山駅から上ってきているので下りは空いている。
下校してきた高校生が引けると下り列車がやってきた。
オレンジとグリーンのツートンカラーで蜜柑のような色合いの電車は、やはり空いているので楽々乗り込める。
岡山駅まで四十分くらいの間、緋紗は一本、二本とレンガでできた薪窯の煙突を数えた。
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