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第1章 黒煙のレクイエム

「食べれん…あなた、今からおとなりさんの家に行って残り物をもらいに行くところなのよ…すぐに帰ってくるから…」

義母の言葉を聞いた義父は『やかましいオドレ!!いらんことをするな!!』と怒った後、みぞおちの付近を両手で押さえて座り込んだ。

「痛い痛い痛い痛い…たんのうガンの手術をしたあとが痛い…」
「あなた…」
「わし…食欲がないのじゃ…冷たいざるそばにしてくれ…」

涼太は、ものすごく怒った声で『酒のんでくる…』と言うて、家を出て行った。

はるひこは出世の方が大事なので、上司に言われるがままに酒をのみに行った。

こうすけも、家にいるのがイヤになっていたので外に遊び回っていた。

御桜里は部屋に閉じこもっていたので、食卓にはいなかった。

食卓にはこずえと義父母だけがいた。

こずえが友人との電話によるおしゃべりに夢中になっていたことが原因で、夕食はそば屋さんの出前のざるそばに変更となった。

ものすごく怒った表情でざるそばを食べていた義父は、こずえに食べかけのざるそばを投げ付けて『ふざけるなボロ嫁が!!』と怒鳴り散らしてつばをはいて、食卓から出て行った。

義母からは『あんたのおしゃべりが原因で晩ごはんができんかったというのに、反省の色がないわねえ!!』と怒りながら食卓から出て行った。

ひとりぼっちになったこずえは、テーブルに顔を伏せて泣くより他はなかった。