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花タクシー【完結】
第14章 手記執筆を終えて
手記執筆を終えて



一時のパラダイス…。
花タクシーはまさしくそれでした。
自分の結論はそこで迷いはありません。


毎日うんざりなストレス大量生産のお仕事で心身を蝕まれながらも、平凡という名の安定たる宝物を決して離せない世のオトコたち…。
自分を含め、その珠玉のトリップトラベルは、まさにそこでの命の泉でしょ。
実際…。


それなくして、メシ食って義務感に隷属したセックスして、1日の3分の1近くを眠ってる人生をやり過ごせますか?


それはストレス発散じゃあないですよ。
夢です、夢…。
将来的な実現願望というユメじゃなく、夢想ですよ。


息が詰まるような喧騒の中の一時のゆりかご…。
そんなものを、くたびれ世代は滋養強壮薬として身に取りこんで、何とか企業戦士の末席を担えるんです。


***


ですから”あの日”、私の目に飛びこんだ”新種のタクシー”を結果的に拒絶しなかったのは、大正解でした。
なにしろ私は、この国でもほんのわずかしかいない、花タクシーの被験者なんですから。


あの空間はもう二度と体験できない。
味わうことは叶わないんです、おそらく永遠に…。


そこで、この貴重な体験をできるだけナマな感覚で伝え、我々のような”需要者”の夢想空間を提供してくれる新たな産業の出現を、日々願っている次第なんです。


***


ついてはこの度、フリーライターの中里さんから、様々な伝聞で今だ謎に包まれたままの”花タクシー”に実際乗車した被験者として、その体験談を綴って欲しいとの依頼をいただきました。


そこで”あの日”の、まるで夢の中での出来事のようだった花タクシー内での一部始終を、できる限り正確に思いだし、その時の生な感覚、私の感じ取ったままを書き起こしました。


中里さんには、タカコという、”働き方改革”からも漏れ落とされたワーキングプアウーマンが、あの花タクシーなる摩訶不思議な空間を”通過”した現実の深部を掘り下げていだだき、この国で必死に奮迅する”下々の息吹”として広く発信してくれることを切望するものです。



花タクシー乗車体験者
奥山








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