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片時雨を抱きしめて
第1章 第一章 自覚
「だからさあ綿谷、俺はお前の将来をおもって……
ってきいてんの?」
担任の青木先生がボールペンで私のおでこをつつく。
教師らしくない長い前髪の後ろから澄んだ目がのぞく。
この面談ももう三度目だ。
「そういわれてもさあ、わかんないもん。ウチ貧乏だし」
高校二年の冬、私たちは次に進む道を見つけ出す。
私はボールペンのあとのついたおでこを押さえる。わかんないんだもん。私はまた小さくつぶやく。
「お金のことはさ、いろんな制度あるし。ほら、片親向けの制度だっていまたくさんあるんよ。綿谷が知りたいなら、俺調べとくし」
先生が困ったように眉をよせたあと、優しく言う。ボールペンをかちかちと鳴らした。
片親向け。世間はずいぶん弱者に優しい。
「ん、あんがとせんせ。また考えとく」
もう三度目だ、こうして切り抜けるもの。
はぐらかしたままその場を去る。
先生の声を後ろで流したまま、廊下を走った。今日はママが帰っているはずだ。はやく帰ってあげないと。
進路なんて勘弁してほしい。私は今を生きるのに、いっぱいいっぱいだった。