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single集
第1章 single 1
side A パレード
実直な趣きをたたえて、たった一つきりのアーケードを有する、その街
行儀よく高さを揃えた小売の店が、道を挟んで両側に軒を連ね、暫く時間を掛けて歩きさえすれば、暮らしに困らない程度には凡その品が賄える。
そんな中、羽目を外した様に屋根を大きくあしらい、派手な彩色を施した看板を掲げた一握りの店は、未だ開く事がない。
世話好きで噂好き、女や男達の火種が絶やされる事なく、今夜はあの店、或いはこの店と、必ず何処かが、夜毎、灯りを入れ、惚れた腫れたのどんちゃん騒ぎを繰り広げる。
とどのつまり彼等には、充分に働いた昼間の汗と、心地よく疲れた肉体があり、ちょっとした愛の誓いと共に、安らげる腕があり、肌もある。
日々の、凡ゆる些末時に祈りの言葉は付け足され、浅き処より祈れば、成る程天は、それこそ近い。まことに神は、俗っぽい愛らしさで彼等と共にあった。
何しろ彼等にしてみれば、そこら中に呑んだくれた神が転がっていそうな位の酒の勢いで、一杯のつけさえも訳ありの思し召しには違いなく、神の御業は、綻んだ靴下の指先ほどにも顕れ給い、有難い当て布の恩恵をも垂れ給う。いかにも、この街の人々にとって、神は細部にこそ宿り給う。
見るからに実直な趣きで、小売の店が軒を連ねる、この街のアーケードにあって、未だ開く事なく、門戸を閉ざし続ける、幾つかの店。
たった一度きりの喧騒が、祝福の声と共に開け放たれ坩堝と化し、夜を徹して街中に吐き出されてゆく、来るべき、その日。
閉じられた今は分かり様もなく、終わった後では、誰ひとり伝える者もいない。
実直な趣きをたたえて、たった一つきりのアーケードを有する、その街
行儀よく高さを揃えた小売の店が、道を挟んで両側に軒を連ね、暫く時間を掛けて歩きさえすれば、暮らしに困らない程度には凡その品が賄える。
そんな中、羽目を外した様に屋根を大きくあしらい、派手な彩色を施した看板を掲げた一握りの店は、未だ開く事がない。
世話好きで噂好き、女や男達の火種が絶やされる事なく、今夜はあの店、或いはこの店と、必ず何処かが、夜毎、灯りを入れ、惚れた腫れたのどんちゃん騒ぎを繰り広げる。
とどのつまり彼等には、充分に働いた昼間の汗と、心地よく疲れた肉体があり、ちょっとした愛の誓いと共に、安らげる腕があり、肌もある。
日々の、凡ゆる些末時に祈りの言葉は付け足され、浅き処より祈れば、成る程天は、それこそ近い。まことに神は、俗っぽい愛らしさで彼等と共にあった。
何しろ彼等にしてみれば、そこら中に呑んだくれた神が転がっていそうな位の酒の勢いで、一杯のつけさえも訳ありの思し召しには違いなく、神の御業は、綻んだ靴下の指先ほどにも顕れ給い、有難い当て布の恩恵をも垂れ給う。いかにも、この街の人々にとって、神は細部にこそ宿り給う。
見るからに実直な趣きで、小売の店が軒を連ねる、この街のアーケードにあって、未だ開く事なく、門戸を閉ざし続ける、幾つかの店。
たった一度きりの喧騒が、祝福の声と共に開け放たれ坩堝と化し、夜を徹して街中に吐き出されてゆく、来るべき、その日。
閉じられた今は分かり様もなく、終わった後では、誰ひとり伝える者もいない。