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single集
第2章 single 2
side B ひとつの drive

後戻りしようにも、既にもう、何処をどう走らせているのかさえ見当がつかず、ひたすら左手に臨む海岸線を頼りに、男はハンドルを握り続けた。
時折、街の灯りらしきものを視界の端に捉えはするものの、遥か下方ですぐさま現れては消え、この道をどう行けば辿り着くのか、何より、そこが目指すべき場所でない事ぐらい男も分かりきっている。
女はシートに深く沈んだまま、変わり映えのしない外の暗がりに、ぼんやりと視線を泳がせながら、時折、重たげに瞼を閉じた。
走れば走るほど、いつまでも海は暗い。
尚更深く瞼を閉じ、暫くは息さえも潜めた女の顔に、やがて、安堵にも似た表情が浮かぶ。再び、ゆっくり眼を開くと、ひときわ明るい顔つきで、何がある訳でもない暗がりの彼方を真っ直ぐに見つめたまま、それっきり、二度と視線を彷徨わせる事もなくなった。

追われる様に、或いは何かを追い求めでもするかの様に、男は更にアクセルを踏み込んでゆく。
いつか、はぐれてしまいそうな二人の行く先・・
せめて今は、二人して同じスピードで、ただ過ぎてゆくしかない。
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