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秒針と時針のように
第6章 時針が止まる時
黙って二人とも身を起こす。
忍は凄く申し訳なさそうに顔を曇らせていた。
オレはそれがやだった。
だから。
「拓?」
ぎゅっと忍を抱き締める。
その首に顔を埋めて。
「忍。大好き」
「……俺もだよ」
すっと腕から抜けて忍が立ち上がる。
なんにも纏わずに。
黒髪が風もないのに揺れる。
「拓、ありがと」
オレはベッドから忍を見つめた。
「なにが?」
「沢山」
「沢山?」
「おう、沢山だ。拓さん」
「忍が駄洒落言った! しのぶちゃん初駄洒落おめでとうっ」
「初じゃねーし。しのぶちゃんやめろ」
ひとしきり笑いあってから、また沈黙。
「あのさ」
「ん?」
「俺のこと、忘れたら呪い殺すからな」
なんでか爆笑してしまった。
「ぶはははっ、なにいってんの」
「マジだぞ」
「当たり前だよ、絶対」
そこで忍は目を泳がせた。
「本当は……逆のこと言うべきなんだろうけどさ。俺、やだから。拓が違う奴と幸せそうにしてたら多分二回死ぬと思うから……だから」
「しーのぶ」
忍がハッとする。
「ごめん、馬鹿なこと言って」
「マイワイフ」
「はっ?」
「忍はマイワイフ。一生」
呆れた笑顔。
ああ。
そっちのが、らしいな。
忍がオレを指差す。
「浮気しちゃダメよ、あなた」
「なっ……」
裏声で。
忍は自分でやっときながら真っ赤になって顔を覆い、ふるふる首を振った。
「忍っ」
「じゃあな」
言い捨てるように叫んで忍が窓をすり抜ける。
オレは急いで窓にすがりついた。
「愛してるよっ、忍!」
空に向かって。
何度も何度も。
カチカチ。
何度も。