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秒針と時針のように
第2章 顔を見た瞬間からの嫌な予感
 間違って閉める生徒は絶対いるだろ。
 大体飼育小屋は飼育委員のテリトリーだし。
 ないわけない。
 手を止める。
 ため息が漏れた。

 なんであんな悪戯とかしちゃったんだ。

 普通に出て山に行けばいつも通りだったのに。
 肩を落として拓の場所に戻る。
「あった? カギ」
「……ない」
 扉の向こうでは兎たちがもそもそと餌を頬張っている。
 慣れたといっても獣臭は頭にくるほどキツイ。
「職員室行ってだれか呼んでくる」
「そしたら忍が怒られる」
「別に」
「それはやだ」
「出られないと山行けねぇし」
「なんとか出れるだろ」
「呼んできた方が絶対早いって」
 しばらくの沈黙。
 なにを思ったか拓が突然奥に歩いていく。
 小屋の外周を回りながら追いかける。
「拓?」
「確かこのへん……」
 なにかを呟きながら。
 網に手を滑らせて。
「おいっ」
「あった」
 それは網の継ぎ目の小さな裂け穴。
 肩のあたりにあるから兎は逃げられないが、腕は通るくらいの大きさ。
「これがなに?」
「こじ開ければ出れるかも」
「はあ?」
 ギギと網が軋む。
 拓は両手の甲を合わせて穴に差し入れ、少しずつ押し広げた。
「ばっ、ばか! なにしてんだ」
「だから出るためだって」
「そっちのが怒られるって」
「でもいけるかも」
 すでに顔くらいの大きさに開いている。
 ボロすぎなんだよ。
 言ってる場合じゃない。
 ギシ。
 食事を終えた兎が走り回る。
 なんだ。
 この状況。
 すげぇシュール。
 言ってる場合じゃない。
「もうちょっと……っ」
 俺も協力する。
 網はぐにゃりと曲がり、もうくぐりぬけられるほどになっていた。
「拓、両手貸せ」
 ぐっと二の腕あたりを掴んで引き上げる。
 穴の淵に足をかけて、力を踏ん張って拓が出てきた。
 グシャッ。
「え?」
 声をあげた瞬間二人とも地面に転がった。
 結構な高さから引き揚げたから仕方ないが、問題は小屋だった。
 拓の体重に耐え切れずにゆがんだ金網は、地上から二十センチくらいにまで空間を広げていた。
 その穴から、ジャシファーが、顔を出した。
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