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秒針と時針のように
第2章 顔を見た瞬間からの嫌な予感
「あ、おい。忍っ」
「小屋まで競争な、レディーゴー」
「え! おい! 反則ぅうう」
 身軽のが楽だ。
 無心に駆け下りる。
 本当に。
 馬鹿なのは誰だっつの。

 裂け目からジャシファーを入れて、水道で手足を洗う。
 親にばれるのが嫌な拓とシャツも洗って。
 ジャングルジムに腰掛けて、それが乾くのを待つ。
 水泳の時みたいに短パンだけで。
 二人とも。
「あー……疲れた」
「悪かったな」
「別に忍は悪くねえし」
「いや。俺のせいだろ」
「違うし」
「なんでだよ」
「カギを黙って変えた奴が悪い」
「あ、確かに」
「確かにじゃねーよ!」
「てめぇが言ったんだろ」
 さっきまでの怒りが消えている。
 まったく、拓と喧嘩は長続きしない。
 涼しい風が吹いている。
 汗で濡れた髪をまとめてゴムで縛る。
 それをじーっと拓が見詰めていた。
「なんだよ」
「忍ってなんで髪伸ばしてんの」
 二年の時と違い、もう肩甲骨が隠れるくらいの長さだった。
 クラスでも際立つだろう。
 俺は毛先を指でつまんで肩をすくめる。
「切りに行かないから」
「なんで?」
 なんで?
 理由なんてねぇよ。
 屑みたいな母親は食べ物だけ置いて家にはいないし。
 服も髪も気にされたことなんてない。
 それが普通。
 俺にとっては。
 同級生が夏になるたび短くしたり、学期毎に整えたりするほうが異様だ。
 拓の髪はいつも綺麗だ。
 耳に掛かる程度のサラサラの茶髪。
 水泳を習っていたのと生まれつきのとで、色素が薄い。
 それが似合う。
 俺は典型的な墨汁色。
「伸ばし続けなよ」
 突然言うもんだから、聞き間違いかと思った。
「え?」
「だから、腰ぐらいまで。桜さんみたいに」
 クラスの女子の名前。
 そうだ。
 あの子は腰ぐらいまであったな。
「なんでだ?」
「似合ってるから」
「そうか」
「オレも伸ばそうかな~」
「拓は今のがいいだろ」
「まじ?」
 えへへっと嬉しそうに笑う。
 遠くで五時のチャイムが鳴る。
 もう帰らなきゃ。
 あのつまんない家に。
「忍」
 いつの間にか拓が鉄棒を伝って真横にいた。
「なに?」
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