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秒針と時針のように
第3章 最初の事件
「なあー! あの人たち付いていけば法隆寺行けんじゃね?」
「うっせ。喋んな。くたばれ」
「ひどすぎねえっ?」
 折りたたんだ地図を片手に忍がため息を吐く。
 見たことのない寺院の木陰で佇み、通りゆく観光客を眺めて。
「てめぇが集合時間過ぎてもなんとか洞から出てこなかったのがわりーんだろ」
「だって中にすげー沢山神様が祀ってあったからテンション上がるだろ。しかも狐もいるし馬もいるし狸もいるんだぞ。動物園かって。やばすぎんだろ。好きな神様の前に蝋燭立てると願いが叶うとか言うからさあ」
「とりあえず黙れ。夜までにホテル着かねえと」
 制服の袖を捲くり、額の汗を拭う。
 時刻は四時で西日が強くなってきている。
 十五分前にバスが出発し、班の残りの三人とはぐれてしまった。
 一本後のバスに乗ればいいと提案したのだが、まだ追いつくかも知れないと走り出した拓を追いかけてこんな場所まで来てしまった。
「これじゃあまだ小学生の時のがマシだったっつの」
「公園で野宿して電車で帰ってきたやつ?」
「思い出させんな」
 バシンと地図で叩かれ、拓が口を曲げる。
 中学二年の秋。
 修学旅行の秋。
 なぜか奈良の辺地で迷子になってしまった。
 この状況が精神的に許せない忍の怒りは限界に近づいてきていた。
「道訊いてこいよ。俺ここで待ってるから」
「はあ!? そんなんできるわけねえだろ」
「そのくらいやれよ」
「オレがいない間に攫われたらどうすんだよっ」
「ねーよ。馬鹿が」
 二十分後、二人分の荷物を抱えた拓が忍の腕を引っ張って歩いていた。
 駅に向かって。
 赤の信号に足を止めたと同時に忍が手を振り払う。
「ガキじゃねえんだから」
「はぐれたら会えなくなっちゃうかもしれねーじゃん」
「丁度いい」
「なにがだよっ」
「ほら。青なったぞ」
 スっと忍が手を握って足を踏み出す。
 拓は繋がれた手をじーっと見て、満面の笑みを浮かべた。
 このまま歩いていたいと思いながら。
 その感触に意識が集中する。
「忍の手って小さいのな」
「むかつく……」
 また離れた手を追って、前かがみになる。
 その表紙に足がもつれて忍にしがみついた。
 荷物が地面に転がる。
 危うく倒れるところだった。
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