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秒針と時針のように
第3章 最初の事件
 奈良県の中でも大阪府よりの生駒郡斑鳩町に都立中の生徒は宿泊している。
 すぐ近くに法隆寺があるので、オレと忍はゆっくりそこを見物してから三時間遅れでチェックインした。
 入口で立っていた担任に見つめられながら。
 ホテルは三人一部屋で水戸結城と一緒だ。
 中学に入ってからの仲だが、気兼ねなく話し合えるやつだ。
 オレと忍をいつもからかう。
「おかえり。問題児カップルさん。どこでいちゃついてたんだよ、たっくん」
「……駅南に良いホテルがあったんだよ。紹介してやろうか?」
「まじかよっ」
「てめぇら今すぐ退くかしね。つうかしね」
 部屋の入口ではしゃぐ二人に氷の声が刺さる。
 迷いに迷って疲れきっていた上に、先ほど教師に三十分弱説教されたばかりで超絶不機嫌だ。
 荷物をクローゼットに仕舞い、学ランを脱いでお決まりのタンクトップ姿になると、無言でベッドに倒れ込んだ。
 結城が笑いながらその上にのしかかる。
 見事に返り討ちにされる。
「忍、夕飯まだ残ってるらしいから食べ行かね?」
「……あれだけバーガーとポテト食っといてよく言う」
「ポテトは完食できなかったもん」
「代わりにアイス食ったろ」
「えっ! お前ら買い食いしてきたのかよっ。土産は?」
「ねーよ」
「もーいい。ハニーの部屋に行ってくる」
 彼女のことか。
 苦笑して手を振ると、すぐに出て行った。
 昨夜あれだけ生活指導に絞られておいてまだ懲りないのか。
 地元治安最悪の中学と謳われるだけあって、生徒のみならず教師も並じゃない。
 引率の配備も完璧だ。
 昨日だけで何人拘束されたことか。
「もう寝んの?」
「んー……風呂には入る……」
 そう言いながら忍は起き上がりもしない。
 解いた髪がシーツに広がり、細い肩に絡まっている。
 そこから覗く肩甲骨の影が目を惹きつける。
「今何時?」
「十時前ってとこ」
「大浴場まだ空いてるっけ」
「さあ。一応オレらは九時まで解放だったけど」
 ガバリと忍が身を起こした。
 目を見開いて。
 それからてきぱきと着替えを準備すると、迫力ある声で言った。
「貸切なんて一生に何回もないぞ、拓。急げ」
 そういえば、昨晩は随分と嬉しそうに湯船に浸かっていたな。
 騒ぐメンバーを睨みつけながら。
 足の伸ばせる湯船は初めてだって言ってたっけ。
「了解」
 オレも急いで準備をした。
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