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秒針と時針のように
第4章 認めたくないこと
 翌日、机の上に山となった購買のパンを見てまた頭痛が再来する。
 数にして五十以上だ。
「なんだ……このジャムパン率の高さはよ。俺はメロンパンのが好きなのに」
「そんな忍にオレからメロンパンを進呈しようっ。一日限定二個販売の富良野メロンパン二百六十円ナリだぞ!」
「ありがとなー」
 機械的な声でそう言って拓から袋を奪い取る。
 山を崩さないように慎重に椅子に座った。
 昼休みになって便所から帰ってきたらこの有様だ。
 こいつらどうやって五分でこの状況を作り上げたんだ。
 メロンパンにかぶりつきながら教室を見渡す。
 事情の知らない女子を除き、全員がこちらを窺っている。
「忍ちゃん、おめでとー」
「その呼び方やめろ、万年発情期」
「じゃあその呼び方もやめてよ。おれはハニー一筋なんだから」
 結城が当たり前のように頂上のサンドイッチを貰う。
 食べきれないから丁度いい。
 それに、サンドイッチは好きじゃない。
「しっかしビビったよ。忍ってあんな速く動けるんだな」
「どういう意味だソレ」
「だっていつもこう……のぺーってしてるから」
「のぺー?」
 唇に付いたクリームを手の甲で拭いながら拓を見上げる。
「いや、オレものぺーっはよくわかんねーよ」
「よかった。てめえがわかんないなら異常なのは結城だ」
「なんだそれえっ! わかるだろ、こうあんま動けない感じ……ってかほら。約束覚えてんだろっ。拓を殴らせろって」
 二個目のメロンパンを開けながら却下する。
「貴重な二つの一つをなんで発情期の為に使わなきゃなんねーんだよ」
「短くなったけど、まだ違う! で、決まったの?」
 結城の質問に二秒ほど静止したが、答えるのが面倒になった。
 三個目を手にとって席を立つ。
 拓は察してすぐに追ってきた。
 昼休み、俺は大抵教室にいない。
 裏庭で拓とぐだぐだするのが好きだから。
 まあ、単純にこのバカ……同級生たちの喧しい冷やかしに付き合ってられないからだ。
 教室の扉を抜ける寸前に声が届く。
「お持ち帰りかよっ」
「バカ言ってんなよ、結城」
「やっと名前で呼んでくれた……っ」
 ふっと笑いが溢れる。
 入学当時は不安で仕方なかったが、地域最悪の治安とはいえ結構住みやすい中学校だ。
 ここは。
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