この作品は18歳未満閲覧禁止です
![](/image/skin/separater5.gif)
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
秒針と時針のように
第5章 一周してわかること
![](/image/mobi/1px_nocolor.gif)
「はあっ、はあ……また見捨てんのな」
結城がにやにや笑う。
「うっぜ……わかってんだろが」
「んー? なんのことだか。お前らはお似合いだと思うぜ?」
「さっさとハニーのとこ行け」
ペイペイと手で追い払う。
息を整えていると、薄紅色の花びらが顔の傍を落ちて行った。
桜だ。
見上げると空を覆い尽くさんばかりの大木に満開の花びら。
「はは。すっげ」
「桜田門外の変!」
「ぐはっ」
背中に手刀で斜め切りされる。
ズキズキ痛む背中を抑えながら振り返ると、拓が両手を合わせてにいっと笑った。
「てんめ……意味わかんねえこと思いつく才能だけは超人並みだな」
「褒めてる?」
「褒めてる。褒めてる」
そう答えながら正門とは違う方向に歩き出す。
拓は黙ってスキップ気味に付いてきた。
言わなくてもわかる。
行先なんて。
開けた視界にぶわっと風が吹き去っていく。
「ここも今日で最後かあ」
毎日来ていた裏庭。
今は地面が見えない。
桜の花びらの絨毯に覆われて。
どちらからともなく走り出した。
少し盛り上がった丘の上まで来て拓が俺の肩を掴む。
急ブレーキが間に合わずに二人とも転がった。
世界が回ってる。
気づくと真っ青な空が見下ろしていた。
息が切れている。
体の節々が痛い。
土と桜の匂い。
「飛びついてくんな……」
「だって忍がはしゃいでる姿見たらたまんなくなって」
「父親かてめえは」
「危ない父親だなソレ。息子の姿に興奮」
「ぶち壊すな」
拓が身を起こして俺の傍に来る。
綺麗な空の半分を占めやがって。
ふっと笑って拓の首に手を絡ませる。
「し……」
ああ。
風が吹いている。
桜が舞っている。
重ねた唇を離して、俺は立ち上がった。
拓は固まったまま動かない。
「行くぞ」
ジャリと転がった後の砂地を踏みしめる。
「おいっ、忍」
「おいてくぞー」
![](/image/skin/separater5.gif)
![](/image/skin/separater5.gif)