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秒針と時針のように
第5章 一周してわかること
「はあっ、はあ……また見捨てんのな」
結城がにやにや笑う。
「うっぜ……わかってんだろが」
「んー? なんのことだか。お前らはお似合いだと思うぜ?」
「さっさとハニーのとこ行け」
ペイペイと手で追い払う。
息を整えていると、薄紅色の花びらが顔の傍を落ちて行った。
桜だ。
見上げると空を覆い尽くさんばかりの大木に満開の花びら。
「はは。すっげ」
「桜田門外の変!」
「ぐはっ」
背中に手刀で斜め切りされる。
ズキズキ痛む背中を抑えながら振り返ると、拓が両手を合わせてにいっと笑った。
「てんめ……意味わかんねえこと思いつく才能だけは超人並みだな」
「褒めてる?」
「褒めてる。褒めてる」
そう答えながら正門とは違う方向に歩き出す。
拓は黙ってスキップ気味に付いてきた。
言わなくてもわかる。
行先なんて。
開けた視界にぶわっと風が吹き去っていく。
「ここも今日で最後かあ」
毎日来ていた裏庭。
今は地面が見えない。
桜の花びらの絨毯に覆われて。
どちらからともなく走り出した。
少し盛り上がった丘の上まで来て拓が俺の肩を掴む。
急ブレーキが間に合わずに二人とも転がった。
世界が回ってる。
気づくと真っ青な空が見下ろしていた。
息が切れている。
体の節々が痛い。
土と桜の匂い。
「飛びついてくんな……」
「だって忍がはしゃいでる姿見たらたまんなくなって」
「父親かてめえは」
「危ない父親だなソレ。息子の姿に興奮」
「ぶち壊すな」
拓が身を起こして俺の傍に来る。
綺麗な空の半分を占めやがって。
ふっと笑って拓の首に手を絡ませる。
「し……」
ああ。
風が吹いている。
桜が舞っている。
重ねた唇を離して、俺は立ち上がった。
拓は固まったまま動かない。
「行くぞ」
ジャリと転がった後の砂地を踏みしめる。
「おいっ、忍」
「おいてくぞー」