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秒針と時針のように
第5章 一周してわかること
「忍、英語で挨拶してみてっ」
時間稼ぎに言ったが、忍は数秒考えてからこう答えて手を振った。
「I would pray for you if I remember.Do it everyday or kill you!」
「I will! 楽しんでこいよ、忍」
「おう」
その日、頭上を飛行機が通るたびにオレは眼で追った。
結果から話そうか。
オレがどんなに魂の抜けた生活を送ったかなんてどうでもいいしな。
忍は英語の才能があったらしく、向こうで色々大学教授と議論を交わして連絡先を交換したり堪能したらしい。
そして一番の変化は肉が好きになったことだ。
「拓っ。アメリカの肉ってすげえんだぞ。こんなんだぞ、こんなん」
そう言って腕を大きく広げて笑っていた。
生来のベジタリアンのオレは、サラダを食いながらその話を共感できずに聞き流していたが。
向こうで買ったキャトルマンとかいうカウボーイの帽子があまりに似合っていて、実は欧米気質の顔なんじゃないかと結城がからかうと少しだけ嬉しそうにしていたな。
そんなに容姿を気にするタイプじゃないから珍しかったな。
残りの夏休みはひたすら宿題に追われる忍の手伝いをしてから祭りと海を回ったっけ。
他県も回れば暇な日はないはずだとかオレが言ったもんだから、結城と三人でほぼ毎日自転車と電車を乗り継いでいろんな場所を回った。
「今度は新潟秋田の花火だな、忍」
「一人で行ってこいよ……」
「奥羽山脈より向こうは流石にやだ」
「地理大好きか、結城」
「奥羽山脈は中学の内容だろっ」
一つ一つを思い返していると人生がもう一つ必要になっちまう。
だからもう少し時針を進めるか。
そうだな。
高校二年の冬まで一気に。
受験零学期に突入する前にオレと忍は計画を立てていた。
自転車で関東一周計画だ。
一年の夏の旅はその前段階だったのかもしれない。
「修学旅行が終わったら自転車旅行って……幸せだな、お前らは」
「結城は今回仲間外れだからな」
「おい。かわいそうな感じに言うな。ハニーと過ごすんだよ、おれは」