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秒針と時針のように
第5章 一周してわかること
 群馬は二人とも初だった。
 結城の生まれということもあり、地元情報をいくつかメモってきたが、そのメモをホテルに置いてきてしまった。
 それを県境あたりで気づいた。
 恐る恐る忍に伝える。
「はあああっ!? てめえ頭おかしいんじゃねえのっ」
「忍がさっさとコンビニ行って来い、俺がチェックアウトしとくから……っていったから! 忘れ物はお前の責任だろっ」
 バシンとガイドブックを投げつけられる。
「案内しろっ。てめえがそっから選べ! 俺はついてく。前行け、バカ」
「丸投げ!?」
 自転車を歩道に止め、忍が顎で前をしゃくった。
 仕方なくオレは前に出る。
 冬の寒い風が吹く中、汗だくで走り続ける。
 忍はピッタリと距離を保って追ってきていた。
 信号で止まる。
「あと……何キロだ」
「はあっ、はあ……ああ、えっと」
「青変わったぞ。早く行け」
「おう……多分十キロくらい」
 そろそろ足が引きつりそうだった。

 道の駅と書かれたパーキングエリアのような店で休憩する。
 地元直産の野菜や果物、肉が並んでいる。
 外には焼きまんじゅうとかいう見たことないデカい饅頭の焼串が売られていた。
 甘く香ばしい醤油の香りに忍が視線を外せずにいる。
「食べる?」
「いや……さっき大宮でプレッツェル食ったし」
「四時間前にな。あれも旨かったけど折角だから買ってみようぜ。腹減ったし」
 忍が少しだけ目を輝かせる。
 オレは屋台に向かった。
 すぐに軽い足取りで追ってくる。
「半分こにしよう」
「了解。おっじさーん。この饅頭ひとつ頂戴」
「おう。餡入りか?」
「えっ。餡入ってるもんじゃねえの」
 煙の中で中年の男が目を見開く。
 それから額をおしぼりで拭ってから身を乗り出した。
「あんたら県外から来たのか?」
「そうっすけど」
「じゃあ餡無し試してみろ。旨いぞ」
 郷に入ったら郷に従え。
 群馬に入ったら群馬の人間に従えだ。
 忍と艶やかに照る饅頭を眺める。
「忍先に食えば?」
「いいのか。じゃあ……」
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