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Gemini
第1章 家庭教師
「暗記はね、カラダと連動させるといいよ」

白く長い指が私の手からシャーペンを取りあげると、揃えた指で私の手の平をなぞって開かせる。私の人差し指をスーッと撫でながら、美しい唇が動く。
「炭水化物、アミラーゼ」

指先へのくすぐったいような刺激は、体全体をムズムズさせる。人差し指の付け根から指先に向かって何度も撫でるその動きから目が離せずに、ぽわーっとなる。
「自分でも言ってみて」

顎を一本の指でピッと持ち上げられて、視界から指が消えた代わりに美しい顔が飛び込んでくる。眩しいほどのその微笑みに、体が一瞬仰け反りそうになる。
「えと…なんだっけ…」

指を撫でられながら、口にするべき言葉は…

「炭水化物、アミラーゼ」
形良い唇に紡がれた生物用語が、まるで愛の告白のように聞こえてくる。
「タン…水化物…アミラーゼ…」

「もう一回。」

「炭水化物…アミラーゼ…」

「いいね。今度はタンパク質、プロテアーゼ」

なぞられる指が中指に変わった。
「タンパク質…プロテ…」

「プロテアーゼ」
「プロテアーゼ」
こんなにぽーっとしてる頭じゃ、覚えられる訳が無い。

「もう一回、言って」

「タンパク質…プロテアーゼ」

「もう一回」

「タンパク質、プロテアーゼ」

「3つめは、脂肪、リパーゼ」
次は薬指を撫でられる。

「脂肪、リパーゼ」
「脂肪…リパーゼ」

私は操られているように、口を動かす。
「もう一回」

「脂肪…リパーゼ」

「じゃ、ここは?」

「炭水化物…アミラーゼ」

「いいね、じゃあ、ここは?」

「タンパク質……プロテ…」
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