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小夜
第5章 あめがふる
「とても綺麗だよ、小夜……」
「小夜は世界で一番綺麗な女の子だね」

お兄さまが小夜の体を撫でながら、うっとりするような声でささやくのを、小夜は震えるような気持ちで聞いていました。

お兄さまからは、小夜をおとしめ、辱める言葉しか言われたことがなかったから……。
……いやらしい、淫らな、汚れた奴隷としか扱われてこなかったから、お兄さまの優しい言葉が嬉しくて、しあわせで……。


(でも……どうして?)
(どうして、今日はこんなに優しいの……?)


普段の、夜の、残酷さを、まったくなくしてしまったお兄さまの態度が、小夜にはとても不思議でした。
小夜の痛みや苦しみが、お兄さまの悦びのはずなのに……。

その小夜の問いかけに、お兄さまは直接には答えませんでした。
ただ「小夜は恋人だから」と言いました。


恋人。
小夜は恋人。


その言葉を聞いたとき、小夜はどれほどしあわせだったでしょう。

お兄さまの残酷は、小夜を愛しているからこそ。
どんなに小夜を責め苛んでも、最後にはこうして抱きしめてくれる。


小夜は、お兄さまに愛されている……


お兄さまに促されるまま、小夜は唇を捧げました。
お兄さまと深く唇を重ねながら、小夜ははじめて、愛しあうキスを交わしているのだと思いました。
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