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籠の中の天使
第16章 罪な事



千鶴さんは眉を顰め、肩を軽く竦めると黄色い色付き眼鏡の向こう側から私をじっと見る。


「この子…、沙来さんの紹介で来たのに私の事を知らないの?」


とモヒカン千鶴さんが自分を知らない人間が居るのが信じられないと嘆き出す。


「すみません…。」


無事、ノアの腕の中へ保護された私は千鶴さんを知らないと謝るしか出来ない。


「黒沢(くろさわ) 千鶴さん、パリコレやニューヨークファッション界で有名なスタイリストだ。『ANOTHER』や『LADY-X』って雑誌でも専属スタイリストをやってたはず…。」


ノアの説明に硬直しちゃう。


「『LADY-X』!?あの雑誌の日本版なら買った事あるよ。」

「その日本版の為に帰って来たの?」


ノアの質問に千鶴さんがニヤリと笑う。


「それもあるけど…、もっと自由に仕事をしたいと思ったから日本でお店を構えたの。まさかのお客様にレイヤ・ノアが来るとか、こっちが驚いたわ。」


千鶴さんがノアの頬に長い爪が付いた指先で触れる。


「ノアって…、有名人?」


マヌケな質問をする私を千鶴さんが豪快に笑う。


「向こうの業界じゃ有名よ。父親が有名レーベルの代表だし、本人もこの顔と身体だもの。メンズファッションのトップモデルをやってたレイヤが日本でアメフトをやる為に引退宣言をした時は誰もが惜しんだものよ。」


舌なめずりをした千鶴さんがノアを見れば、ノアは嫌そうに眉を顰めて私を抱きかかえる。


「俺の事はいいんだよ。今日はこの子の為に沙来姉からここに行けと言われたから来ただけだ。だから千鶴さんが思い描く咲都子にしてやって欲しい。」


落ち着かない私の頭にノアがそっとキスを落とす。

千鶴さんは私とノアの関係を吟味するように目を細める。

沙来さんが言うところのノアの世界は私とは掛け離れ過ぎてて自分が自分でなくなるような感覚がするから、ノアの腕の中だというのにノアがとても遠い人に感じるだけだった。


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