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籠の中の天使
第17章 スタートライン
そこは千鶴さんが開業したヘアーサロンの特別室だった。
「アメリカに居た頃のノアって凄いモデルでしたか?」
私の髪を洗う千鶴さんに聞いてみる。
結局、千鶴さんにノアから引き離された私だけが、この部屋に連れて来られてノアは別室で待つ事になった為、此処ぞとばかりにノアについて千鶴さんから話を聞こうと試みる。
「そういう事は本人に聞くべきよ。」
少し冷たく野太いオネエ言葉が返って来ると私の身体がビクリと強張る。
「やぁね、私って、そんなに怖いの?」
千鶴さんが口を尖らせる。
「えーっと…。」
どう答えるべきかに迷っちゃう。
あの街では千鶴さんのようにスペシャルを感じさせるような人は存在しない。
古き忌まわしき伝統だけが受け継がれる街には新しい風が吹く事はなく、そのままの姿が未だに残ってる。
あの街の事を思い出して憂鬱な表情になる私を気遣うように千鶴さんが優しい笑顔で私の顔を覗き込む。
「咲都子だっけ?今はレイヤの事よりも自分の事だけを考えなさい。」
悩む私を笑う千鶴さんが言う。
「自分の事?」
「私はあの沙来さんから咲都子を穂奈美ちゃんの服に相応しいスタイルにして欲しいと言われてるの。」
「はい…。」
「咲都子は穂奈美の服を着る意味がわかってる?」
沙来さんからも似たような事を言われた。
市原さんには市原さんのプライドがあると…。
私はその市原さんの気持ちに答える為にこのお店に来た。
「今の私じゃ市原さんの服に相応しくないって事です…。」
そう答えて目を伏せる私の髪を突然、千鶴さんがガシガシと乱暴に洗い出す。
「い…、痛い…。」
「そりゃそうよ。わざと痛くしたもの。」
髪を洗い流し、頭にタオルを巻けば千鶴さんが私が寝そべる椅子を起こして改めて座らせる。