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籠の中の天使
第17章 スタートライン
「ほら、見て…。」
千鶴さんが私の目の前にある鏡に視線を向ける。
鏡には頭にタオルを巻かれ、ケープを羽織ったてるてる坊主スタイルの私が居る。
「今の自分をどう思う?」
千鶴さんが耳元で囁く。
「どうって…、平凡なてるてる坊主が居ます。」
私の答えにプッと千鶴さんが吹き出す。
「このお店に来たお客様は誰もが必ずてるてる坊主になるわよ。私が言いたいのは咲都子を飾る髪も服も無い咲都子自身をどう思うかを聞いてるの。」
千鶴さんの言葉で改めて自分の顔を見直す。
それはいつもの私…。
自信がなく、頼りなげな瞳が狼狽えては視線が定まらずに俯いて表情に影を落とす。
「ほら、ちゃんと顔を上げなさい。」
千鶴さんは俯く私の顔を両手で挟み強引にグイッと持ち上げる。
「だって…。」
「悪いけど咲都子を特別に可愛いとは言わないわよ。私だってこの業界は長いしモデルをやってる子のほとんどが特別に美人って訳じゃないもの。」
「でも、モデルさんは特別なくらい美人です。市原さんだって、かなり美人だし…。」
「それは姿勢が良いから、そう見えるだけよ。」
千鶴さんが呆れた声を出して私を見る。
「姿勢…ですか?」
「そう、咲都子みたいに俯いてばかりの子だと、幾ら可愛くても暗い子にしか見えなくて当たり前なの。」
それはそうだろうとは思う。
それでも私はあの街の醜い籠娘だからとやっぱり俯いてしまう。
「もっと自分に自信を持ちなさい。」
「そんなの無理です。」
「無理じゃないわよ。ほら、もう一度、自分の顔をよく見て…。誰もが羨ましいと思うくらいに白いお肌をしてるじゃない。まだ若くて透明感もあって…。この白さを手に入れようと現役モデルの女の子がどれだけ苦労してるか咲都子は知ってるの?」
少し叱る口調で千鶴さんが話す。