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籠の中の天使
第19章 羽ばたく瞬間
スタジオの近くに穂奈美さんの行きつけのお店があると聞いて、それぞれが車に乗って向かう事にする。
「本当はね...、ノアにもお礼がしたかったけど...。」
移動する中でノアに私の気持ちを伝える。
モデルとしてすらまだ認めて貰えていない私がノアに出来る恩返しなんか見つからない。
「お礼とか考える必要はない。俺が咲都子を守りたいと自分から望んでやってる事だから...。」
「でも、ノアにも何かしてあげたい。」
「そう思うなら、咲都子は可愛く笑ってろ。」
私の肩を引き寄せて運転するノアに甘えてしまう。
少しづつ見えて来る未来へ、僅かな一歩でも踏み出せた自分に満足だと思う。
いつかは、ノアにも私なりのお礼が出来る日が来ると信じたい。
「そんな事よりも...、咲都子...。」
ノアが少し改まった声で言う。
「なぁに?」
運転をするノアを見上げれば、複雑な表情をしたノアが私から視線を逸らす。
「何でもない...。」
「何よ?言いたい事はちゃんと言ってよ。」
「本当に何でもないよ。咲都子は自分を信じて前だけ見てろ。」
「なんか...、変だよ。ノア...。」
「嬉しいんだよ。咲都子が自分の未来へと進むのがさ。だから...、ちょっと俺も浮かれてる。」
いつもと変わらない笑顔を見せるノアに安心しきってた。
籠娘でなくなった私はもう南斗に頼らなくとも生きていけると思っていた。
何でも出来るノアが居れば安心感しか感じない。
浮かれていたのは私の方だった。
この時のノアの瞳の炎に陰りを感じるべきだったのに、何も見えずに自分勝手に翔び立った天使は、もう後戻りが出来ない世界へと大きく翔んでしまった事に気付きもしなかった。