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籠の中の天使
第19章 羽ばたく瞬間
もっと話をしたい。
聞きたい事が山ほどある。
何よりも今日のお礼をしたい。
「どうしたの?」
穂奈美さんが足を止めて笑顔を私に向ける。
「この...後は...お時間...ありますか?」
いっぱいいっぱいだけど聞いてみる。
「この後?編集部と打ち合わせ...。咲都子ちゃんの写真をどんな風にページに載せるかとかを話し合うの。」
穂奈美さんから仕事だと聞いて、何も言えなくなる。
器用に人付き合いをして来なかった私に自分の気持ちを上手く伝える言葉が見つからない。
「そう...ですか...。」
諦めかけた私の背中を押してくれる人が居る。
「咲都子が穂奈美さんにランチを奢りたいらしい。初めてのギャラを穂奈美さんの為に使いたいんだと...。」
私の気持ちを代弁するノアが穂奈美さんに伝えてくれる。
「ランチ?うん、ランチくらいの時間はあるわよ。でも、今日のギャラって安かったでしょ?私に使うとか勿体無いわよ。」
穂奈美さんがもう少し一緒に居てくれるというだけで幸せで胸がいっぱいになる。
「穂奈美さんの為に使いたいです。」
豪華な食事は無理だとわかってる。
それでも私に出来る精一杯をしてあげたいと願う。
「あら、ランチは穂奈美だけ?」
穂奈美さんの後ろから千鶴さんが口を尖らせる。
「千鶴さんも...。」
お礼をしたいけど、ギャラが少な過ぎて不安になる。
「咲都子の分は俺が出してやる。今日、頑張ったご褒美な。」
千鶴さん達には聞こえないようにノアが私の耳元で囁く。
「千鶴さんも一緒に...。」
ノアが背中を押してくれるから堂々と話せる。
穂奈美さんや千鶴さんのように凄い人達とランチだけでも食事が出来るだけで幸せだと思う心が満たされる。