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籠の中の天使
第1章 籠娘…、籠娘…
それは籠娘の私に対する悲しみ…。
街を出たい…。
でも出られない。
「咲都子…。」
南斗が私の顔を覗き込んでじっと見る。
俯いてイヤイヤと首を横に振れば
「焦らなくてもいい…。」
と言う南斗の唇が私の眉間に触れる。
「帰りたい…。」
これは私の我儘だとわかっている。
まだ南斗には仕事がある。
今は放課後だから、部活中の学生が突き指やら捻挫で保健室に駆け込んで来る時間帯だ。
「先に咲都子だけを家に送ろうか?」
「南斗の部屋がいい…。」
今の南斗は一人暮らしをしててあの街の外側にあるマンションに住んでる。
「それはダメ…。うちに来ていいのは学校が休みの日だけって約束しただろ。」
「だって…。」
「後30分くらいで部活の時間も終わる。そしたら一緒に帰れるから、もう少しだけ我慢しろ。」
私の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜて撫でたら保健医の顔に戻る南斗が再び私に背を向けて机に向かう。
南斗は私を外に出そうと懸命に頑張ってくれてる。
その南斗の気持ちに答えたくとも答えられない自分にもどかしくて悲しみさえ感じちゃう。
私は南斗のお父さんの病院で生まれた。
既に10歳だった南斗と13歳だった北斗さんが二人して女の子の赤ちゃんが生まれたと私の誕生日に大喜びしていたとお母さんから聞いた事がある。
あの街では誰もが家族…。
私は南斗と北斗さんの妹分として育てられて来た。
お互いのお母さんがお店の仕事で忙しいからと私のオムツは南斗と北斗さんが替えた。
学校に入るまでは幸せな毎日だった。
小学校の頃から段々と私の幸せの歯車がズレ始める。
そして、あの日…。
私を地獄に突き落とす事件が起きた。