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あの時、あのBARで
第1章  BAR・シークレット


「咲子ちゃん、咲子ちゃん似の赤ちゃんに会うのを楽しみにしてるからね」
「あれ?俺に似てるとダメなのかよ?」
カウンターに座る孝明の背中をどつく凌空。
その向こうで、少し皺と白髪の増えた穏やかな笑顔を見せるマスター。そして・・

BAR・シークレット。
私たちの出会いから今日までのすべてを見ていた、素敵なバー。
ドアを彩るステンドグラスと、心にまで響くカウベルの音が、
今度は別の誰かを幸せへと導いていくかもしれない。

 ホットミルクを私の前に置いた後、マスターが目で斜め後ろを見ろと合図してくる。
振り返ると、20代前半と思しきカップルが、
遠慮がちな微笑みを交わしながらおしゃべりしていた。
「彼らもね、ここで出会ったんだよ。あの頃のキミたちみたいにね」
マスターは嬉しそうに口元を緩めた。
 カウンターへと戻るマスターの後姿を見つめながら、思い出した。
たしか、看板に「恋のキューピット」って書き加えたらどうかって言ったら、
大笑いされたっけ・・・



   「忘れられない指」より


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