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嘘の数だけ素顔のままで
第1章 序章
 コトブキアキラが職業訓練を申し込んだのはこれが初めてではなかった。


 母親の勧めで興味を持って、三年前の九月にも自宅とハローワークをエアコンのほとんど効かない車で何往復もした。

 今年のように猛暑で片道十七キロを通うのは楽ではなかったし、受講書類のお役所言葉は、今の日本社会の生きづらさを反映したように回りくどくて頭痛がした。ここで仕事を探している失業者たちは性別の違いや年齢に関係がなく恥のようなものが眼つきに表れていた。


 希望する職種はありますか、と尋ねられたとき、コトブキは、アナタのようになりたい、と職員の目をはっきりと見てそう言った。職員の男はただ笑ったが、コトブキは笑わなかった。

 アンタの椅子と代ってくれよ、コトブキは声にださずにそう続けて呟いた。しかし、男が書類を整理する色白な手の薬指に指輪があって、アナタの歳からじゃ逆立ちしたって無理ですよ、と男から言われている気がして、コトブキの頭痛はさらにひどくなった。


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