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第49章 健治を思い出した広美

二人は軽い朝食をとり終わると、急いで会社に向かった。

家から駅まで手を繋ぎ、恋人のように歩いていく。
駅に着き電車に乗ると、空いていた座席に座り、広美は太田に寄り添うように、目的の駅まで体を寄せていた。

「おっ、着いたな」
「広美ちゃんと一緒に通勤すると楽しいからアッというまに着いちゃうな」
「俺、コンビニ寄っていくからさ、広美ちゃん先に会社に行きな」

広美は本当は太田と少しでも一緒に居たくて、コンビニまで行きたかったが、会社が近いので知り合いに見られても困ると思い、太田を見送り会社に向かった。

(幸せな気分だな…)
(お昼も太田さんと食べようかな)

そんな幸せな広美を一本の電話が現実に戻す。

広美の鞄の中から、電話を知らせる着信音が鳴り出した。
広美はハッとしたように思い出す。

「あっ、この音…、健治さんから電話だ」

広美の思考は一瞬停止した。
そして数秒して、頭の中に色々な事が駆け巡る。

「あ…、あ、あ…」
「え？健治さん…」
「わたし、わたしには太田さんが…あっ！」
「やだ、違う、違うわ」
「私は健治さんと付き合ってるじゃない」
「で、でも私は太田さんが好き…」

広美の頭はグチャグチャになり、考えがまとまらない。

そして鞄の中で音が止まり健治からの電話は切れた。