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† 姫と剣 †
第6章 アノア王国
いつも淡々としている弟の激怒した姿に、ウィルは緩く笑う。
昔から、ロイは何が起きても騒ぎ立てもしない。
物に執着も見せなければ、人にも興味がなさそうにしている。
その整った容姿から、女が群がってきたとしても、適当にやり過ごすだけ。
川に流した笹舟のように、流れに任せて進んでいく。
それでいて転覆はせず、どの舟よりも早く──……
そんなロイの初めてみる本気で怒った姿にウィルは笑みをこぼす。
「挨拶代わりにちょっとキスをしただけだよ?」
「っ………!?」
「いやぁにしても、お前にも、感情があるんだなぁ」
フッと笑ったウィルに、頭の血が上ったロイはそのまま躊躇うことなく勢いよくウィルの頬を殴りウィルから手を離した。
「いってぇ……」
よろめいたウィルはそう言いながら、殴られた頬をさすった。
ルシアとリューイは黙ったまま、2人の様子を眺める。
すると、肩で息をしながら、ロイは振り返ってリューイに手を伸ばした。
「………剣を…」
「………………」
「剣を…貸してくれ」
実の兄を斬る気なのだろう。
それほどまでにロイも怒っているのだ。
しかしロイの問い掛けに、リューイは黙ったまま、突き付けていた剣を下ろす。
そして、グリップを握り直しそのままロイに渡す……ことはせずに、自身の背中の鞘にしまった。
「…………貸せと言っているだろうが」
「剣を他人に渡す剣士がどこにいる」
リューイのセリフに、ウィルがふぅーと息を吐く。
「ありがと、剣士さん。命拾いしたよ」
「勘違いするな……お前が助かったのは弟のお蔭だ。こいつが割り込んでこなければ、俺はお前を斬っていた」
ひぇーとわざとらしく声を上げるウィルにチッとロイが舌を打ったのと同時に、マヤとアマンダが再び小屋に戻る。
ウィル、ロイ、リューイ3人が睨みを効かせる中、マヤとアマンダはルシアの周りに集まって肩を抱いていた。