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† 姫と剣 †
第1章 お忍び
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いつもより賑やかな街の中、とぼとぼと歩くルシアをマヤは心配そうに見つめる。
「ルシア様……今日が最後ですからね」
「分かってるわ」
もう明日にはルシアの成人の儀が行われる。
そうなれば、もう街には来れない。
「本くらい、お願いしたら取り寄せてもらえますよ!」
「そうね……」
返事をしながら、ルシアは自身の唇に触れた。
想いは……通じ合ったはず…。
なのに、もうこの街へ来るのは最後。
結局昨日はあのまま、ろくに会話もせずリューイの家を出てしまった。
そのせいで、リューイが遠くへ行くことの真相も、自分が明日から来られないことも話せていないまま、だった。
はぁ…と肩を落とすルシアに、マヤは困っていると、目の前で小さな女の子が、母親に一輪の花を渡していた。
「素敵ねぇ。ありがと」
「うんん!いつも、ありがと!」
和やかな親子の会話に、マヤはハッと息を呑む。
「そっか…!今日は母の日ですね!いけない、何も用意してない…」
慌てるマヤは、またハッとして口元を押さえる。
ルシアの母は昔に亡くなった。
無神経な発言をしてしまったと、マヤは反省しながら、ルシアに向き直る。
「あ、ごめんなさい……」
「いいの。全然気にしないで」
そう軽く笑ってルシアは顔を上げて街を見渡す。
あちこちで花を持っている人が目立つ。