この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
† 姫と剣 †
第1章 お忍び
暖炉の灯りのせいで、リューイの表情が紅くなる。
「だが、もちろん…そいつはお前じゃない」
真面目な顔が少し切なげに歪んだことにルシアは気付いた。
「それに……その約束を果たすため…俺はもうすぐここを発つ」
「…えっ………?」
発つ─────
それはつまり、会えなくなるということを意味している。
ルシアも明後日には成人の儀。
それ以降は無闇に街へ出ることは出来ない。
しかも、今のリューイの言葉からすると、仮にルシアが街へ出れたとしても、もう会えないということ。
戸惑うルシアを変わらずリューイは顔を近付けてルシアの唇に視線を落とした。
「リューイ……発つって…どこに…」
「遠いところだ」
「……っ…………」
「だから、何もかも無意味」
ルシアも、ゆっくりと目を伏せて、リューイの唇を見つめる。
「この気持ちも全て……な」
「リューイ………」
「分かっては……いるんだが…」
もう会えなくなる……
互いにそれは分かっている事─────
互いの意に反して、
唇がどちらからともなく重なった。
頭の芯が溶けるような感覚に、ルシアは興奮を覚えた。
体の中の何かが沸き立って、ふつふつと何かが込み上げる。
同じ想いだったことは嬉しいのに、それでも未来が見えずに切なさが体を縛る。
それでも……
今はこのまま───…
どれくらいそうしていたかは分からない。
ただ、長い時間2人は暖炉の前で唇を重ねていた。