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† 姫と剣 †
第1章 お忍び


暖炉の灯りのせいで、リューイの表情が紅くなる。



「だが、もちろん…そいつはお前じゃない」



真面目な顔が少し切なげに歪んだことにルシアは気付いた。



「それに……その約束を果たすため…俺はもうすぐここを発つ」


「…えっ………?」



発つ─────



それはつまり、会えなくなるということを意味している。


ルシアも明後日には成人の儀。

それ以降は無闇に街へ出ることは出来ない。


しかも、今のリューイの言葉からすると、仮にルシアが街へ出れたとしても、もう会えないということ。



戸惑うルシアを変わらずリューイは顔を近付けてルシアの唇に視線を落とした。



「リューイ……発つって…どこに…」


「遠いところだ」


「……っ…………」


「だから、何もかも無意味」



ルシアも、ゆっくりと目を伏せて、リューイの唇を見つめる。



「この気持ちも全て……な」


「リューイ………」


「分かっては……いるんだが…」




もう会えなくなる……


互いにそれは分かっている事─────




互いの意に反して、


唇がどちらからともなく重なった。


頭の芯が溶けるような感覚に、ルシアは興奮を覚えた。


体の中の何かが沸き立って、ふつふつと何かが込み上げる。


同じ想いだったことは嬉しいのに、それでも未来が見えずに切なさが体を縛る。


それでも……


今はこのまま───…


どれくらいそうしていたかは分からない。


ただ、長い時間2人は暖炉の前で唇を重ねていた。


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